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就農の現実:なぜ多くの若者が600万円の資金不足に直面するのか


―『青年等就農資金』に頼る新規就農の実態―

「農業を始めたい」

自然の中で働き、自分の裁量で経営する。そんな魅力から農業に関心を持つ人は少なくありません。しかし実際に就農計画を立て始めると、最初に突き当たる壁があります。それが資金の問題です。

農業は、土地、機械、ハウス、肥料、種苗など、事業を始めるための初期投資が非常に大きい産業です。では、実際に新規就農者はどのように資金を準備しているのでしょうか。

全国農業会議所が公表した「新規就農者の就農実態に関する調査結果(令和6年度)」をもとに、新規就農の資金事情を見ていきます。


新規就農者の約半数は借金からスタート


調査によると、就農時に資金を借り入れている人は54.6%。つまり、新規就農者の約2人に1人は借入を伴って農業を始めていることになります。

しかし、この割合は年齢によって大きく変わります。

若い世代ほど借入率は高く、

  • 29歳以下:60.3%

  • 30代:58.1%

と、6割近くが借入を利用して就農しています。

一方、50代では28.4%まで低下し、60歳以上では借入がほとんど見られません。

これは、若い世代が資産や貯蓄を十分に持たない状態で農業を始めるケースが多く、現役世代の就農には外部資金が不可欠であることを示しています。


就農1年目に発生する「600万円の資金ギャップ」


では、なぜ多くの新規就農者が借入を必要とするのでしょうか。

その理由は、就農初年度の収支構造にあります。

調査によれば、新規参入者の就農1年目にかかる費用は平均で約896万円です。

しかし、自己資金として用意できる額は平均約278万円にとどまっています。

つまり、単純計算で約619万円の資金不足が発生します。

この約600万円のギャップが、新規就農者が借入に頼らざるを得ない最大の理由です。


最も利用されているのは「青年等就農資金」


では、新規就農者はどこから資金を調達しているのでしょうか。

調査結果によると、借入先の中で圧倒的に多いのが、国の制度資金である

「青年等就農資金」

です。

借入を行った人の約8割がこの制度を利用しています。

次いで

  • JAなど農協系金融機関:約2割

となっており、民間銀行よりも制度資金への依存度が高いことが分かります。

青年等就農資金は

  • 基本無利子

  • 長期返済

  • 据置期間あり

という特徴があり、実績のない新規就農者でも利用しやすい制度です。

そのため、多くの若手農業者にとっては就農を実現するための重要な資金源になっています。


返済が始まるときが経営の分岐点


ただし、この制度には注意点があります。

青年等就農資金は補助金ではなく借入金です。据置期間が終了すれば、元本の返済が始まります。

農業経営がまだ軌道に乗っていない段階で返済が始まれば、資金繰りに大きな負担がかかる可能性があります。

特に、

  • 酪農

  • 施設園芸

  • 大規模設備を伴う作目

では初期投資が大きく、自己資金との差が広がる傾向が見られます。

そのため、据置期間中に安定して収益を生み出す経営体へ成長できるかが、将来の経営を左右します。


「借りられる」ことと「返せる」ことは別問題


今回のデータから見えてくるのは、新規就農が制度資金によって支えられている現実です。

しかし同時に、借りられることと、返せることは別の問題でもあります。

新規就農を目指す人は、

  • 生活費を含めて必要な自己資金はいくらか

  • 据置期間後の年間返済額はいくらか

  • 返済後に利益が残る経営計画になっているか

といった点を、あらかじめ冷静に計算しておく必要があります。

農業技術だけでなく、資金計画も経営の重要なスキルです。

夢を現実の仕事として続けていくためには、作物の育て方と同じくらい、お金の流れを理解することが欠かせません。

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