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新規就農で生計を立てやすい作目は何か


「自然の中で働きたい」「自分の作物を育てて暮らしたい」「食を支える仕事に関わりたい」

こうした思いから、新規就農を目指す人は少なくありません。

農業には、他の仕事にはない魅力があります。自分の手で作物を育て、地域に根ざし、自然と向き合いながら働くことには、大きなやりがいがあります。

しかし、農業を仕事として続ける場合、避けて通れない現実があります。

それは、「農業だけで生計を立てることは簡単ではない」ということです。

就農相談の現場では、「思ったより収入が伸びない」「貯金が減っていく」「生活費まで回らない」といった悩みが出てきます。これは本人の努力不足だけで片づけられる話ではありません。

農業は、自然相手の仕事であると同時に、資金、販路、設備、労働力、価格変動を管理する経営です。

今回は、全国農業会議所の「新規就農者の就農実態に関する調査結果」をもとに、作目ごとの生計成立率と、生計が成り立つまでの期間について整理します。


1. 農業だけで生計が成り立つかは、作目によって大きく変わる

新規就農を考えるとき、多くの人はまず「何を作りたいか」から考えます。

トマトを作りたい。いちごを作りたい。果樹をやりたい。露地野菜で始めたい。酪農に挑戦したい。

作物への関心や憧れは、就農の大きな動機になります。

しかし、農業で生活していくには、「好きな作物かどうか」だけでは不十分です。

重要なのは、その作目で生計が成り立つ経営を作れるかどうかです。

調査結果を見ると、農業所得だけで生計が成り立っている割合は、作目によって大きく異なります。

生計成立率が50%を超えているのは、主に次のような作目です。

酪農:70.8%その他耕種作目:54.5%施設野菜:50.7%

一方で、露地野菜や果樹では、生計が成り立っている割合が30%台にとどまっています。

この差は非常に重要です。

もちろん、酪農や施設野菜なら簡単に稼げるという意味ではありません。むしろ、これらの作目は初期投資や設備投資が大きく、参入のハードルは高くなります。

ただし、設備を整え、技術と販路が確立できれば、収益構造を作りやすい面があります。

一方、露地野菜は比較的始めやすい印象がありますが、天候の影響を受けやすく、価格変動も大きくなります。面積を広げなければ売上が伸びにくい一方で、面積を広げると労働力や機械も必要になります。

果樹は人気のある作目ですが、収益化までに時間がかかります。苗木を植えてから安定した収穫が得られるまで、数年単位の期間が必要になることもあります。その間の生活費や運転資金をどう確保するかが大きな課題になります。

つまり、作目選びは単なる好みの問題ではありません。就農後の生計を左右する、重要な経営判断です。


2. 「参入しやすい作目」が「生計を立てやすい作目」とは限らない

新規就農では、初期投資を抑えたいと考える人が多くなります。

そのため、ハウスや大型設備が必要な作目よりも、露地野菜のように比較的始めやすそうな作目を検討する人もいます。

しかし、参入しやすいことと、生計を立てやすいことは別です。

露地野菜は、施設型農業に比べれば初期設備を抑えられる場合があります。しかし、天候リスク、単価変動、作業量、販路確保の難しさがあります。

例えば、収量が天候に左右される。市場価格が下がる。出荷作業に人手が足りない。小規模では売上が伸びない。規模を広げると機械や人手が必要になる。

このような課題があります。

果樹も同じです。

果樹は、ブランド化や直販との相性がよく、長期的には魅力のある作目になり得ます。しかし、就農直後から十分な収入を得るのは簡単ではありません。

収穫できるまで時間がかかる。成園化までの期間が長い。剪定や防除など専門技術が必要。気象災害の影響を受ける。販売先を作るまで時間がかかる。

こうした条件を考えると、「果樹をやりたい」という思いだけで就農計画を作るのは危険です。

作目を選ぶときは、「始めやすいか」ではなく、「何年目に、どれくらいの所得を残せるか」まで見なければなりません。


3. 生計が成り立つまでの期間は、早い人ほど強い傾向がある

次に重要なのが、「生計が成り立つまでに何年かかったか」です。

農業ではよく、「最初の数年は我慢」「3年続ければ形になる」と言われることがあります。

もちろん、農業技術の習得には時間がかかります。地域の気候、土壌、病害虫、作物の特性を理解するには、実際に経験を積む必要があります。

しかし、経営面では、時間が経てば自然に所得が上がるとは限りません。

調査結果では、生計が成り立つようになった人のうち、最も多いのは「就農1・2年目」で生計を確立した層です。

さらに興味深いのは、生計確立までに5年以上かかった層よりも、1・2年目で生計を確立した層の方が、現在の平均農業所得が高い傾向にあることです。

1・2年目で生計を確立した層の平均農業所得は442万円とされています。

ここから言えるのは、「長く続ければ自然に稼げるようになる」という見方は甘いということです。

早い段階で軌道に乗せた人は、就農前の準備が具体的だった可能性があります。

農地を確保していた。資金計画を作っていた。研修で実践的な技術を学んでいた。販路を事前に考えていた。高収益が見込める作目や設備を選んでいた。生活費と運転資金を見込んでいた。

このような準備が、就農後の立ち上がりを左右していると考えられます。

逆に、「始めてから考える」という形で就農すると、低所得の期間が長引くリスクがあります。資金が減れば、必要な投資ができなくなります。投資ができなければ、作業効率や品質が上がらず、さらに所得が伸びにくくなります。

就農初期の遅れは、その後の経営に長く影響します。


4. 作目選びは経営シミュレーションである

新規就農で作目を選ぶときは、憧れや好みだけで決めるべきではありません。

作目選びは、経営シミュレーションそのものです。

確認すべきことは多くあります。

初期投資はいくら必要か。売上が立つまでに何年かかるか。年間経費はいくらか。どれくらいの面積が必要か。どれくらいの労働時間が必要か。販路は確保できるか。単価が下がった場合に耐えられるか。天候不順や病害虫にどう備えるか。生活費を含めて資金が持つか。借入金を返済できるか。

これらを確認せずに作目を決めると、栽培はできても生活が成り立たないという状況になりかねません。

特に露地野菜や果樹のように、生計成立率が低めに出ている作目では、より慎重な計画が必要です。

露地野菜なら、どの品目を組み合わせるか。どの時期に出荷するか。どの販路で売るか。どの程度の面積で採算が取れるか。労働力をどう確保するか。

果樹なら、収穫までの無収入期間をどう乗り切るか。成園化までの生活費をどう確保するか。既存園地を引き継げるのか。販売先をどう作るのか。加工や直販も含めるのか。

こうした具体的な設計が必要になります。

「好きだから続けられる」という気持ちは重要です。しかし、農業経営では「好きだから食べていける」とは限りません。


5. 就農前の準備が、その後の生存率を左右する

新規就農で重要なのは、就農してから頑張ることだけではありません。

就農前にどこまで準備できるかです。

農業は、始めた後にすべてを修正できるほど簡単ではありません。

作目を決める。農地を借りる。機械や施設に投資する。住まいを確保する。販路を作る。借入を行う。

これらは、一度決めると簡単には変えられません。

だからこそ、就農前の段階で、できるだけ現実的な計画を作る必要があります。

特に重要なのは、資金計画です。

生計が成り立つまでの期間を見込み、その間の生活費と運転資金を確保しなければなりません。

「3年くらいで何とかなる」「最初は赤字でも、続ければ軌道に乗る」「売上が出れば返せる」

このような見通しだけでは危険です。

農業では、収量が計画通りにならないことがあります。単価が下がることもあります。設備が故障することもあります。病害虫や気象災害もあります。

最悪のケースでも資金が尽きないか。生活費を確保できるか。返済が滞らないか。必要な投資を続けられるか。

ここまで考えたうえで、就農計画を作る必要があります。


6. 農業で生計を立てるには、栽培技術だけでは足りない

農業で生計を立てるには、当然ながら栽培技術が必要です。

良い作物を作る。収量を安定させる。品質を高める。病害虫を防ぐ。地域の気候に合った管理を行う。

これらは農業者としての基本です。

しかし、それだけでは農業経営は続きません。

必要なのは、数字を見る力です。

売上はいくら必要か。経費はいくらかかるか。所得はいくら残るか。生活費はいくら必要か。借入金はいくら返済するか。追加投資はいつ必要か。単価が下がった場合でも耐えられるか。

これらを把握していなければ、経営は感覚頼みになります。

新規就農では、作物を育てる力と同じくらい、経営を組み立てる力が必要です。

「どの作目が好きか」ではなく、「その作目で生活できる構造を作れるか」。

ここを見なければ、就農後に理想と現実の差で苦しむことになります。


まとめ:新規就農では「作りたい作物」より先に「生計が立つ構造」を見る

新規就農には夢があります。

自然の中で働き、自分の作物を育て、地域に根ざして暮らす。そのような働き方に魅力を感じるのは当然です。

しかし、農業を長く続けるには、生計が立つ構造を作らなければなりません。

調査結果を見ると、農業所得だけで生計が成り立っている割合は、作目によって大きく異なります。

酪農、その他耕種作目、施設野菜では、生計成立率が比較的高くなっています。一方で、露地野菜や果樹では、生計が成り立っている割合が30%台にとどまっています。

また、生計が成り立つまでの期間を見ると、1・2年目で早期に軌道に乗せた人が多く、その層の平均農業所得も高い傾向があります。

これは、就農前の準備が重要であることを示しています。

新規就農で大切なのは、「好きな作物を選ぶこと」だけではありません。

その作目で、何年目にどれくらい売上が立つのか。経費を差し引いて所得が残るのか。生活費と返済をまかなえるのか。天候不順や価格低下にも耐えられるのか。販路を確保できるのか。必要な資金を準備できるのか。

ここまで確認して、初めて就農計画になります。

農業は、自然と向き合う仕事です。同時に、数字と向き合う経営でもあります。

これから新規就農を目指すなら、まず考えるべきなのは「何を作りたいか」だけではありません。

「その作目で、本当に生計が立つのか」。

この問いから逃げないことが、農業を長く続けるための第一歩です。

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