農業経営は「家選び」から始まる。調査結果が示す家賃相場と住宅確保のリアル
- ishikawa030
- 5 時間前
- 読了時間: 3分

「自然豊かな場所で農業を始めたい」。そんな夢を描くとき、私たちはつい「どの作物を育てるか」「どんな農地を借りるか」といった生産面の計画に熱中しがちです。しかし、安定した農業経営を続けるためには、生産活動と同じくらい、あるいはそれ以上に「自分自身がどこに住み、いくら生活費がかかるか」という足元の計画が重要になります。
今回は、全国農業会議所が公表した「新規就農者の就農実態に関する調査結果(令和6年)」をもとに、新規就農者が実際にどのような住居を選び、どれくらいの家賃を負担しているのか、そのリアルな数字を紐解いていきます。
■「田舎は家賃がタダ同然」は本当か?

地方移住や就農にあたって、「田舎に行けば家賃は数千円で済むだろう」という楽観的な予測を立てていないでしょうか。今回のデータは、そんなイメージに対して少し冷静な視点を与えてくれます。
新規参入者(自営)の就農時の家賃(月額)を見ると、最も多いのは「3万円〜5万円未満」の層で、全体の35.8%を占めています。次いで多いのが「5万円〜10万円未満」で33.6%です。つまり、全体の約7割の人が、月額3万円以上の家賃を支払っていることになります。
一方で、「1万円未満」という格安物件に住めている人はわずか5.5%にとどまりました。かつては空き家バンクなどで激安物件が見つかることもありましたが、条件の良い物件は競争率が高く、またリフォーム費用がかさむケースも少なくありません。
就農直後は収入が不安定になりがちです。その中で毎月数万円の固定費が出ていく事実は、初期の資金繰り(キャッシュフロー)に直結するリスク要因です。経営計画を立てる際は、家賃を低く見積もりすぎず、現実的なライン(3〜5万円程度)で計算しておくことが、転ばぬ先の杖となります。
■年代でこれだけ違う。「借りる」か「買う」か「実家」か

次に、住宅をどう確保したかという「手段」についても見てみましょう。ここには年齢による明確な戦略の違い、あるいは「事情の違い」が浮き彫りになっています。
まず、29歳以下の若手層に注目すると、最も多いのが「実家(配偶者の実家含む)」で34.0%に達します。次いで「集合住宅、アパートを借りた」が24.7%です。若いうちは親元の資産やサポートを活用し、住居費を抑えることで就農初期のハードルを下げている姿がうかがえます。
これが30代〜40代になると傾向が一変します。30代では「住宅(一戸建て)を借りた」が27.4%でトップとなり、40代でも同様の傾向が見られます。家族が増えるなどのライフステージの変化に伴い、アパートではなく広い一戸建てを賃貸で探す必要が出てくるのでしょう。
そして50代になると、今度は「中古住宅(一戸建て)を購入した」割合が27.5%と高くなり、賃貸よりも購入を選ぶ層が増えます。さらに60歳以上では「持ち家」が54.2%と過半数を占めます。これは退職金などの自己資金を活用し、終の棲家として定住を決意して就農するケースが多いと考えられます。
■「住む場所」のリスク管理が就農成功の鍵

今回のグラフや数値から見えてくるのは、「自分と同じ年代の人がどう動いているか」という成功(あるいは妥協)のパターンです。
20代なら、無理に独立せず実家や親族を頼るのも立派な戦略です。
30〜40代なら、一戸建て賃貸の争奪戦になることを想定し、早めに地域に入って情報収集する必要があります。
50代以上なら、購入資金を含めた大きな投資計画の中で、農業の設備投資とのバランスを慎重に見極める必要があります。
「畑は決まったが、住む場所がない」「家賃が想定外に高く、肥料代が出せない」。こうした事態を避けるためにも、ご自身の年齢や資金状況に合わせた「住居戦略」を、就農計画の第一歩として組み込んでみてはいかがでしょうか。