「知らなかった」では済まされない就農準備金の落とし穴。データで見る、資金確保に成功する作目・失敗するパターン
- ishikawa030
- 2 日前
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農業を志す人にとって、最大の悩みの一つが「資金」です。技術習得のための研修期間、そして独立後の生活費や設備投資。これらを支えるために国が用意しているのが、「就農準備資金」と「経営開始資金」(旧:農業次世代人材投資資金)です。
しかし、すべての人がスムーズにこれらの資金を受け取れているわけではありません。令和6年に公表された全国農業会議所の調査結果からは、意外な「受給のハードル」と、作目による「傾向の違い」が浮き彫りになっています。
これから就農を目指す方が、資金面でのつまずきを避け、堅実なスタートを切るために知っておくべき現実を解説します。
■「知らなかった」で数百万を損する現実
まず直視しなければならないのは、「給付金を受け取らなかった、あるいは受け取れなかった人」が一定数いるという事実です。

今回の調査対象となった農業者のうち、資金を全く受給していない層に対し「なぜ受給しなかったのか」を聞いた結果が、非常に示唆に富んでいます。 もっとも多い理由は「給付要件を満たさなかった」で、全体の60.7%を占めました。これは、年齢制限や所得制限、あるいは研修機関の認定状況など、制度の細かな条件に合致しなかったケースです。ここには、事前の情報収集不足や、計画と制度のミスマッチという課題が潜んでいます。
さらに深刻なのが、次点の理由です。実に15.5%の人が「制度自体を知らなかった」と回答しています。 年間最大150万円、最長で数年間にわたり支給されるこの制度を知らずに就農準備を進めることは、経営体力においてあまりに大きなハンディキャップです。「知っているか、いないか」だけで、数百万円規模の差が生まれてしまうのが、農業経営のシビアな現実です。
■作目によって異なる「資金活用のスタイル」
次に、実際に資金を受け取っている人たちが、どのような農業経営を選んでいるかを見てみましょう。

データを見ると、作目(育てる作物)によって資金の受給パターンに明確な傾向があることが分かります。 特に「就農準備資金(研修期間)」と「経営開始資金(独立直後)」の両方を受給している割合が高いのが、「施設野菜(42.2%)」や「花き・花木(40.8%)」に取り組む人たちです。 施設園芸は、ハウス建設や環境制御などの設備投資が大きく、技術習得にも専門的な研修が必要になるケースが多いため、研修段階からフルに制度を活用して準備を進めている様子がうかがえます。
一方で、「水稲・麦・雑穀類」では受給していない人の割合がやや高く、資金制度への依存度が作目によって異なることも読み取れます。自分が選ぼうとしている作目が、一般的にどのような資金計画で進められているのか、先輩農家の傾向を知ることはリスクヘッジになります。
■新規参入者にこそ必要な「準備期間」の資金
また、今回の調査では「新規参入者(非農家出身)」と「親元就農者(実家を継ぐ)」の間で、資金の使い方が大きく異なることも明らかになりました。

親元就農者は、既に実家に基盤があるためか、経営開始後の資金のみを受給するケースが6割を超えています。対して、新規参入者は「準備型と経営開始型の両方」を受給した人が32.7%、「経営開始型のみ」が43.6%と、受給パターンが分散しています。 特に注目すべきは、新規参入者において「準備型と経営開始型の両方」を受給している割合(32.7%)が、親元就農者(15.1%)の倍以上である点です。
これは、土地も技術も持たない新規参入者にとって、就農前の「研修期間(準備期間)」がいかに重要であり、その間の生活を支える資金が不可欠であるかを如実に物語っています。
■まとめ:要件確認と計画こそが最強の「農機具」

データから見えてきたのは、「制度を知らないことのリスク」と「自分の立ち位置(作目・参入形態)に合わせた資金計画の必要性」です。
「良い野菜を作れば売れる」のは真実ですが、そこに至るまでの経営を持続させるのは、情熱ではなく資金です。6割の人が涙を飲んだ「給付要件」を早期に確認すること。そして、施設野菜などの設備投資がかかる作目を目指すなら、研修期間から使える資金を確保すること。
これらは、トラクターを買うことと同じくらい、あるいはそれ以上に重要な「就農準備」と言えるでしょう。


