農業経営は初期投資が9割?データで読み解く「資金の壁」と失敗しない調達術
- ishikawa030
- 2025年12月31日
- 読了時間: 4分

「自然の中で自分らしく働きたい」。そんな想いで新規就農を目指す方は増えていますが、いざ事業計画を立て始めると、多くの人が現実的な「数字」の壁に直面します。
特に大きな課題となるのが「初期投資」です。公的な実態調査によると、新規参入(自営)の就農1年目にかかる費用は平均で約896万円。それに対し、用意できている自己資金は平均278万円にとどまります。単純計算でも、スタート時点で約619万円の資金不足が発生しているのが現実です。
「足りない分はどう工面すればいいのか?」「みんなどこから借りているのか?」。今回は最新の調査データをもとに、先輩農業者たちが直面した資金のリアルと、その乗り越え方を紐解いていきます。
■作目によってこれだけ違う。「借入率」から見る経営リスク
農業と一口に言っても、選ぶ「作目(作物)」によって経営のスタイルやリスクは大きく異なります。まずは、就農時に資金の借り入れを行った人の割合を、作目ごとに可視化したグラフを見てみましょう。
設備産業としての農業の現実

この可視化データから読み取れるのは、「施設や設備への依存度」がそのまま借入の必要性に直結しているという事実です。
最も借入率が高いのは「酪農」で、実に9割以上の新規就農者が外部からの資金調達を行っています。次いで「施設野菜」「花き・花木」が7割を超えています。これらはビニールハウスや温室、搾乳設備などのインフラ投資が必須であり、自己資金だけでスタートするのは極めて困難であることを示しています。
一方で、「露地野菜」や「果樹」は借入率が比較的低くなっています。これらは初期の設備投資を抑えやすい側面がありますが、それでも約4割から半数の人は資金調達を行っています。「露地ならお金がかからない」と安易に考えるのではなく、天候リスクや収穫までの無収入期間(特に果樹)を見据えた運転資金の確保が必要です。
■頼みの綱は「公的資金」。民間の融資はハードルが高い?
では、先輩農家たちはどこから資金を調達しているのでしょうか。「借金」と聞くと銀行や農協(JA)をイメージするかもしれませんが、新規就農の現場では少し事情が異なります。
主要な借入先として「青年等就農資金(国による無利子融資制度)」と「農協」の利用率を比較したグラフをご覧ください。
公的支援なしでは立ち行かない現実

グラフを見ると一目瞭然ですが、どの作目においても「青年等就農資金」の利用率が圧倒的に高くなっています。多くの作目で70〜80%の借入者がこの制度を利用しており、実質的に新規就農者の生命線となっています。
この制度は「無利子」「実質無担保・無保証人」という非常に有利な条件で借りられるため、実績のない新規就農者にとって最も有力な選択肢です。逆に言えば、民間の金融機関や農協から、実績ゼロの段階で多額の融資を引き出すのはハードルが高いという裏返しでもあります。
特に注目すべきは、設備投資額が莫大になりがちな酪農や施設野菜において、この公的資金への依存度が極めて高い点です。事業計画を立てる際は、まずこの「青年等就農資金」の要件(認定新規就農者への認定など)をクリアできるかどうかが、就農の可否を分ける最初の関門と言えるでしょう。
■リスクを直視し、「経営者」としての準備を

データから見えてきたのは、「農業は初期投資がかさむビジネスであり、公的支援の活用が前提となっている」という構造的な現実です。
就農1年目の売上高は平均354万円程度というデータもあり、初期投資を回収して軌道に乗せるまでには数年の時間を要します。特にリスクの高い作目を選ぶ場合は、「なんとかなる」という精神論ではなく、以下のような具体的な準備が不可欠です。
自己資金の確保:融資を受ける際も、一定の自己資金(総事業費の2〜3割程度が目安)があることで審査が有利になります。
制度活用のための情報収集:青年等就農資金などの制度資金は申請から実行まで時間がかかります。早めに自治体や普及指導センターへ相談しましょう。
精緻な事業計画:借入は「返す」ことが前提です。減価償却や返済スケジュールを含めた、シビアな収支計画作成能力が求められます。
農業は「ロマン」のある仕事ですが、それを続けるためには「ソロバン(経営数字)」が欠かせません。このリスクを事前に知り、適切に備えることこそが、長く続く農業経営への第一歩です。


