「食べていける」まで何年かかる? 就農3年目に訪れる“魔の谷”と生存率を上げる準備
- ishikawa030
- 1月16日
- 読了時間: 4分

これから農業を始めようと考えている方にとって、「本当に農業一本で食べていけるのか?」という不安は常につきまとうものです。 自然相手の仕事ゆえのやりがいは大きいものの、経営という側面から見れば、農業は「初期投資が重く、回収までの期間が長い」典型的なスタートアップビジネスでもあります。
本記事では、全国農業会議所が公表した最新の「新規就農者の就農実態に関する調査結果(令和6年度)」のデータをもとに、外からは見えにくい農業経営の「苦労・リスク・お金のリアル」を可視化し、就農前に確認すべきポイントを解説します。
「生計が成り立つ」までの壁は想像以上に厚い
まず直視しなければならないのは、「就農してすぐに軌道に乗る人は一握りである」という現実です。 今回の調査データにおいて、「農業所得でおおむね生計が成り立っている」と回答した農業者の内訳を見ると、非常にシビアな傾向が見えてきます。
以下のグラフ(図1)は、主な作目別に「農業所得で生計が成り立っている人の割合」をランキングにしたものです。

酪農の安定感と、露地野菜の厳しさ グラフから分かる通り、生計が成り立っている割合が最も高いのは「酪農」で約7割。次いで「施設野菜」が約5割となっています。これらは設備投資額も甚大ですが、その分、収益化のシステムが確立しやすい側面があります。 一方で、参入障壁が比較的低いとされる「露地野菜」や「果樹」では、生計が成り立っている割合は3割台にとどまっています。つまり、**「露地野菜で就農した人の約6割以上は、農業所得だけでは十分な生計が立てられていない(または確立途上である)」**という現実があるのです。
就農3〜4年目に潜む「魔の谷」
次に、「生計が成り立つまでにかかった年数」と「その時の所得」の関係を見てみましょう。 「石の上にも三年」と言いますが、データはそれ以上に長期戦が必要であることを示唆しています。
以下のグラフ(図2)は、生計が成り立つまでの年数ごとの「人数(棒グラフ)」と「平均農業所得(折れ線)」を示したものです。
このデータからは、以下の2つのリスクが読み取れます。

「1・2年目で成功する層」と「長期化する層」の二極化 生計が成り立つまでの期間として最も回答数が多かったのは「1・2年目(237人)」ですが、ほぼ同等の人数が「3・4年目」「5年以上」と回答しており、後ろに長い分布になっています。
3・4年目の所得低下(中だるみリスク) 注目すべきは、折れ線グラフが示す農業所得です。1・2年目で生計を立てた人の平均所得は約442万円ですが、3・4年目でようやく生計が立った人の平均所得は356万円まで下がっています。 これは、「早期に高収益体質を作れた人」と、「低空飛行のままなんとか生計ラインに到達した人」の差とも読み取れます。また、就農3年目頃は就農支援資金(旧:農業次世代人材投資資金など)の交付終了や、機械の故障・更新などが重なりやすく、資金繰りが最も厳しくなる時期でもあります。
どこに備えるべきか:就農計画の「解像度」を上げる

これらのデータは、決して「農業はやめておけ」と言っているわけではありません。「楽観的な見通しは捨て、最悪のケースに備える」ことの重要性を示しています。
これからの就農計画において、特に意識すべきは以下の3点です。
「5カ年計画」での資金準備 「1〜2年で黒字化」という計画は、よほど条件が良くない限りリスクが高いです。「5年間は満足な利益が出なくても生活できる運転資金(または兼業収入)」を確保しておくことが、精神的な余裕と正しい経営判断につながります。
作目選びは「投資対効果」で考える 初期投資を抑えやすい露地野菜は魅力的ですが、生計確立のハードルは高めです。逆に施設園芸は借入リスクがありますが、生計確立の確度は高まります。「借金を怖がらない」ための緻密な事業計画が必要です。
販売金額ではなく「所得」を見る CSVデータによると、生計が成り立っている人の平均販売金額は約1,400〜1,600万円ですが、手元に残る所得はその2〜3割程度です。売上規模に惑わされず、経費を差し引いた「手取り」がいくらになるかをシビアに計算してください。
農業は、準備不足のまま飛び込むにはあまりにリスクの大きい世界です。しかし、データを正しく恐れ、対策を講じた人にとっては、自らの裁量で人生を切り拓ける魅力的なフィールドでもあります。まずはご自身の計画が「データに基づいた生存戦略」になっているか、再確認してみてはいかがでしょうか。


