新規就農者は何に一番困っているのか?経営面・生活面の課題と今後の打ち手 2025
- ishikawa030
- 1 日前
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「新規就農者は、実際のところどんな点で一番困っているのか?」これは、新規就農を目指す人が本気で動き出す前に、必ず知っておくべき疑問です。
この記事では、全国農業会議所の『新規就農者の就農実態に関する調査(令和6年度)』のデータを使って、新規就農者が「経営面・生活面でどんな課題を抱えているのか」、そしてそこからどんな展望を持てるのかを、数字をベースに整理します。
1. 経営面の最大の課題は「資材費高騰」と「所得の低さ」

経営面の問題・課題を見ると、新規参入者・親元就農者ともに、トップは「資材費等の高騰」です。新規参入者で約6割、親元就農者では7割近くが挙げており、肥料・農薬・燃料・梱包資材など、ほぼすべてのコスト上昇が直撃していることがわかります。
2位は「所得が少ない」。こちらも両者ともに5割強と、かなり高い水準です。端的に言えば、
売上はそう簡単には増えない
一方で資材費がじわじわではなくドカンと上がっている
という板挟みの構図です。
3位には「自然災害」が入り、新規参入者で4割、親元就農者で5割弱。台風・豪雨・高温・遅霜など、どの作目を選んでも「気候リスクから完全には逃げられない」という現実が見えてきます。
そのほか、
設備投資資金の不足
労働力不足(働き手が足りない)
といった項目も3〜4割台で並びます。トラクター・ハウス・施設園芸設備など、初期投資も更新費も重い一方で、人手も足りない。「お金も人も足りない状態で、天候リスクを抱えた事業を回している」のが、今の新規就農者の姿です。
2. 就農年数・年齢で変わる「しんどさ」の中身

同じ「課題」でも、就農年数や年齢によって中身は少し変わります
1〜2年目は「技術」と「資金繰り」のダブルパンチ
就農後1〜2年目の層では、
資材費高騰・所得の少なさは早くも5割超
それに加えて「技術の未熟さ」や「運転資金の不足」の割合が高い
という特徴があります。まだ技術も販売先も固まっていない段階で、原価だけが重くのしかかる。「頑張っているのに、お金も技術も足りない感覚」が一番きつく出るフェーズです。
ベテランになるほど「自然災害」が効いてくる
5年目以上になると、「自然災害」を課題に挙げる割合がさらに高まります。経験を積むほど、「自分の技術や努力では防ぎきれないリスク」がはっきり見えてくる、ということです。技術の未熟さはむしろ低下しますが、その分「天候・気象リスク」との長期戦になります。
年齢が高いほど「技術の未熟さ」が重くのしかかる
年齢別に見ると、50代・60代で就農した層は、「技術の未熟さ」を挙げる割合が若年層より高くなっています。体力的なハンデもある中で、新しい機械・IT・販路開拓までキャッチアップするのは簡単ではありません。
3. 作目によって課題の顔ぶれはかなり違う

販売金額第1位の作目別で見ると、課題の出方はかなり違います。
水稲・麦・雑穀類・豆類
資材費高騰・所得の少なさに加え、設備投資資金の不足や自然災害の割合が高い
大規模な機械・施設と天候リスクの両方を抱える構造
露地野菜
所得の少なさ・資材費高騰が特に高水準
品目価格の乱高下と、肥料・資材の値上がりの影響が直撃
施設野菜
資材費高騰に加えて、労働力不足の割合が高め
高収益だが、労働集約的で人手の確保がボトルネックになりがち
果樹・花き
長期投資型の作目らしく、自然災害や設備投資資金の不足が強く出る
台風・凍害・高温など、一度の被害で数年単位の打撃になるリスク
畜産(特に酪農)
資材費高騰(飼料価格)と労働力不足の割合がきわめて高い
365日休めない勤務形態も相まって、経営・生活両面で負荷が大きい
このように、「どの作目を選ぶか」で、ぶつかる壁の種類と強さが変わります。就農前に「その作目ならではの課題」を具体的に洗い出しておくことが、かなり重要です。
4. 生活面の課題――休めない・体がきつい・家族も巻き込む

経営だけでなく、生活面の課題も見ておく必要があります。
新規参入者では、
「思うように休暇がとれない」が4割強でトップ
次いで「健康上の不安(労働がきつい)」が4割弱
という結果です。「農業は休めない」「体がきつい」というイメージは、そのまま数字に出ています。
親元就農者では順位が入れ替わり、
1位:健康上の不安(労働がきつい)
2位:思うように休暇がとれない
となります。親世代の労働スタイルを引き継ぐ形で働き続けている分、体への負担がより強く意識されているとも読めます。
そのほか、
子どもの教育・保育
家族の理解・協力
集落の人との人間関係
といった「暮らし・人間関係」に関する項目も、1〜2割台ながら無視できない割合です。経営が厳しい状況で長時間労働が続くと、どうしても家庭や人間関係にしわ寄せが行きやすい。ここを軽く見て就農すると、後からボディーブローのように効いてきます。
5. これから就農を目指す人が押さえておくべきポイント
数字をまとめると、新規就農者の課題は「特殊な悩み」ではなく、かなりシンプルです。
お金の問題
資材費高騰・所得の少なさ・設備投資・運転資金
人と技術の問題
労働力不足・技術の未熟さ・労務管理
時間と健康の問題
休めない・労働がきつい・家族との関係
これらを前提条件として、就農前から次のような準備をしておく方が現実的です。
最初から「資材費が高い前提」の収支計画を引く
甘い単価やコスト前提で事業計画を作らない
補助金・低利融資・共同利用機械など、「固定費を軽くする手段」を全部洗い出す
作目ごとのリスクを具体的に知ったうえで選ぶ
水稲・露地野菜は自然災害リスク
施設野菜・果樹・畜産は設備投資と労働負荷
「何がきついのか」を先に理解してから覚悟を決める
最初の5年は「技術と販路づくりの投資期間」と割り切る
1〜2年目は技術の未熟さと資金繰りがきついのは当たり前
研修・指導者・地域のベテラン農家との関係づくりに、意識的に時間を使う
働き方と休み方を、最初から設計に入れる
「休めない前提」でスケジュールを組むと、ほぼ確実に潰れる
繁忙期以外は意識的に休みを確保する仕組み(家族・アルバイト・外部サービス)を作っておく
就農を止めるつもりはありません。むしろ、これらの課題を正面から理解したうえで始めた人の方が、長く続けやすいはずです。調査データは、「怖がらせるための材料」ではなく、「覚悟と段取りを固めるためのチェックリスト」として使うのが現実的だと思います。
※本記事のデータは、全国農業会議所『新規就農者の就農実態に関する調査結果(2025年度)』(https://www.be-farmer.jp/uploads/statistics/r6_zittai.pdf
)および2013・2016年度調査の集計表をもとに作成しています。


