週末にじっくり読みたい、収量アップの新常識!トマト栽培をアップデートするCO2施用とスマート農業の最前線
- GREEN OFFSHORE info チーム

- 11 時間前
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はじめに:週末のひとときに、これからの農業の話をしませんか?
日曜日の朝、一息つきながら今週の畑の様子を振り返っている生産者さんも多いのではないでしょうか。日々の忙しさから少しだけ解放されるこの時間に、これからの農業経営についてじっくり考えてみるのはいかがでしょう。
この記事が提案するのは、単なる「便利な技術のリスト」ではありません。これからの農業の「新しい常識」です。それは、低コストな環境制御(CO2施用)、データに基づいた意思決定(日射量予測)、そして誰もが使える自動化(スマート農業ツール)を、一つのシステムとして連携させるという考え方。この3つを組み合わせることで、これまでのリスクとリターンの計算式を根本から変える、賢い収益向上の道筋が見えてきます。
ただ頑張るだけじゃない。テクノロジーを味方につけて、経営そのものをアップデートするためのヒントがここにあります。週末のコーヒーのお供に、ぜひ最後までお付き合いください。

1. なぜ今、「低コスト」と「安定生産」が重要なのか?
現代の日本の農業は、生産者の高齢化や後継者不足、輸入品との競争激化といった根深い課題に直面しています。特に、高騰を続ける燃料費や人件費は、もはや管理すべき変数ではなく、経営の存続を脅かす「 existential threat(存亡に関わる脅威)」となりつつあります。これまでのやり方を続けるだけでは、利益を確保することが極めて困難な時代になったのです。
農研機構が発行した研究戦略レポートでも指摘されているように、このような状況を乗り越え、成長していくための鍵は「低コスト化」と「生産の安定化」という2つのキーワードに集約されます。これは単なるスローガンではありません。生き残りのための、そして未来への投資を可能にするための必須戦略です。
この戦略を実現する具体的な方策が、大規模化や省力化であり、その中心を担うのが環境制御技術です。闇雲に規模を大きくするのではなく、データに基づき、エネルギーや資材の投入を最小限に抑えながら収量を最大化し、品質を安定させる。この記事で紹介するCO2施用やスマート農業ツールは、この戦略を実現するための、互いに連携し合う強力な武器なのです。まずは、多くの生産者が比較的低コストで導入でき、大きな効果が期待できる「CO2施用」の最新の考え方から、じっくりと掘り下げていきましょう。
2. CO2施用の効果を最大化する「新常識」
トマトをはじめとする施設野菜の収量を増やす上で、CO2施用が有効であることは広く知られています。植物は光合成によって成長しますが、その主原料は「光」「水」、そして「CO2」です。しかし、換気を締め切ることの多い冬場のハウス内では、日中、トマトが光合成を行うことでCO2がどんどん消費され、その濃度は外気(約400ppm)を大きく下回るレベルにまで低下してしまいます。これでは、トマトは「息苦しい」状態で、本来持っている成長のポテンシャルを十分に発揮できません。
だからこそ、不足するCO2を人工的に補ってあげる「CO2施用」が必要不可欠なのです。しかし、ただやみくもに施用するだけでは、燃料費がかさむばかりで思ったような効果は得られません。ここでは、コストを抑えながら収量を最大化する「賢い使い方」の新常識を解説します。
2.1. 「高濃度」はもう古い?効率を追求する「低濃度・長時間」という考え方
かつては「早朝の密閉された時間帯に1,000ppm程度の高濃度で施用する」のが一般的でした。しかし近年の研究で、より効率的な方法があることが分かってきました。それは、「闇雲に高濃度で施用するよりも、外気レベル(400ppm)を下回らないように低濃度(400〜600ppm)で長時間施用する」という考え方です。
この考え方の背景には、2つの科学的な事実があります。 第一に、千葉県の指導マニュアルで指摘されているように、トマトの光合成効率はCO2濃度500ppmを超えたあたりから効果が緩やかになります(「500ppmを超えたあたりから、その効果はだんだんと低減していきます」)。第二に、ハウスは密閉されているように見えても常に空気の入れ替わりがあるため、高濃度で施用しても多くが外に漏れ出してしまい、非常に無駄が多いのです。
この「低濃度・長時間」施用の有効性は、各地の研究成果が裏付けています。
• 基本効果の実証(茨城県):低濃度(500〜600ppm)でCO2施用を行った試験では、無施用と比較して可販収量が4〜5%増加しました。これは、植物の「息苦しさ」を解消するだけで、明確な増収効果があることを示しています。
• 効率性の証明(長崎県):さらに興味深いのは、日中のCO2濃度を400ppmに維持した区画が、より高濃度な700ppmで施用した区画や無施用区画と比較して、可販果収量が多い傾向を示したことです。一方で果実の糖度に大きな差はなかったことから、低濃度施用が品質を損なわずに収量を高める上で、コスト効率の面で優れていることが示唆されます。
• 最適化技術の実践(兵庫県):最も進んだ事例では、換気窓の開度に応じて施用濃度を自動調節する技術が開発されました。窓の開度が10%未満のときは800ppm、10%以上のときは外気に近い400ppmに設定。この賢い制御により、果実品質を維持しながら約20%の増収を達成し、費用対効果は10aあたり約22.3万円と試算されています。
このように、理論(千葉・茨城)から実証(長崎)、そして最適化(兵庫)へと、研究は一貫して「低濃度・長時間」の有効性を示しています。状況に応じて濃度をきめ細かくコントロールすることが、CO2施用の効果を最大化する鍵なのです。

2.2. ちょっとした工夫で効果アップ!CO2施用の実践テクニック
CO2施用の効果は、少しの工夫でさらに高めることができます。千葉県の技術指導マニュアルなどを参考に、明日からでも実践できるテクニックをいくつかご紹介します。
• 循環扇の活用 植物の葉の周りには、光合成で排出された酸素が溜まり、CO2濃度が低くなった「葉面境界層」という薄い空気の層ができます。循環扇を使ってハウス内の空気をゆっくりと動かし、このよどんだ空気をかき混ぜてあげることで、葉がCO2を吸収しやすくなります。強すぎる風はトマトにとってストレスになるため、葉がかすかに揺らぐ程度の微風を意識するのがポイントです。
• 局所施用 発生させたCO2をハウス全体に拡散させるのではなく、作物の株元や、光合成が最も活発に行われる上位葉の近くに集中して供給する方法です。暖房機の有孔ダクトをそのまま活用したり、CO2施用機専用のダクト(かん水チューブでも代用可)を設置したりすることで、より少ないCO2量で高い効果を得ることができます。
• 湿度管理 現在主流の灯油などを燃焼させてCO2を発生させるタイプの場合、CO2と同時に水蒸気も発生し、ハウス内が多湿になりがちです。湿度が95%を超えると葉かび病などのリスクが高まるため、適切な換気や暖房によって湿度をコントロールすることが重要です。ただし、急激な換気はトマトのストレスになるため、天窓の開度を調整するなど、緩やかな管理を心がけましょう。
• かん水との連携 CO2施用は光合成という「エンジン」の出力を上げる行為です。しかし、エンジンをパワーアップさせれば、より多くの燃料(水)オイル(養分)増肥も効果的です。一度のかん水量を増やしすぎると根腐れの原因になるため、自動かん水装置などを活用した「少量多かん水」が有効な対策となります。
2.3. 燃焼式 vs 液化炭酸ガス:どちらを選ぶ?
CO2の供給方法には、大きく分けて「燃焼式」と「液化炭酸ガス式」の2種類があります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身の経営規模や栽培スタイルに合った方式を選ぶことが大切です。
方式 | メリット | デメリット | こんな生産者におすすめ |
燃焼式 (灯油・プロパンガス等) | ✔️ 初期投資が比較的安い ✔️ 導入しやすい | ❌ 熱と水蒸気が発生する ❌ 高温期の利用が難しい ❌ 不完全燃焼のリスク管理が必要 | ・中小規模のハウス ・初めてCO2施用を導入する方 |
液化炭酸ガス式 (ボンベ・タンク) | ✔️ 熱を発生せず、高温期でも利用可能 ✔️ 流量の調整が容易で精密な制御向き | ❌ 初期投資(タンク設置等)が高額 ❌ ランニングコストが割高になる場合がある | ・1ha程度以上の大規模施設 ・高温期にも積極的に施用したい方 |
燃焼式は手軽に始められますが、熱と湿度の管理が重要です。一方、液化炭酸ガス式は初期投資がかかりますが、熱を発生させないため高温期でも安定して施用できるという大きな利点があります。
ここまでCO2施用の技術を深掘りしてきましたが、これらの効果をさらに安定的に、そして省力的に引き出すためには、テクノロジーの力が不可欠です。次のセクションでは、日々の管理を楽にし、データに基づいた最適な栽培を実現するスマート農業ツールをご紹介します。
3. テクノロジーを味方につける!省力化と最適化を実現するスマート農業ツール

CO2施用のような栽培技術の効果を最大限に引き出すためには、ハウス内の環境を常に最適な状態に保つ必要があります。しかし、毎日圃場に足を運び、天候の変化を見ながら手動で窓の開閉や水やりを調整するのは、大変な労力と時間を要します。
これまでの「経験と勘」に頼る農業から、**「データに基づいた農業」**へとシフトすること。これが、省力化と収益向上を両立させるための次の一手です。ここでは、スマートフォン一つで始められる、具体的で導入しやすいスマート農業ツールを2つ紹介します。
3.1. 【事例紹介】スマホ一つでハウス管理が変わる「GO SWITCH」
「GO SWITCH」は、株式会社GREEN OFFSHOREが開発した、今あるハウスに後付けできる遠隔自動制御システムです。「割に合うスマート農業」をコンセプトに、農家が本当に欲しい機能に絞り込むことで、導入しやすい価格設定を実現しています。
• スマホでできること
◦ 窓の開閉: 温度や日射量に応じて自動で開閉。タイマー設定も可能。
◦ 灌水(水やり): いつでも好きなタイミングで、遠隔操作で水やり。
◦ 暖房・ファン: ハウス内の温度管理をスマホ一つで。
このシステムの最大の魅力は、その手軽さです。専用のリモートスイッチを今の設備に取り付けるだけで、すぐにスマート農業を始めることができます。各ハウスを回って窓を開け閉めする手間がなくなり、その時間を他の作業に充てることができます。
また、価格も基本システムの初期費用は10万円から、月額7,000円からと、大規模な投資が難しい中小規模の経営体でも導入を検討しやすい設定になっています。実際に、豊橋市では「アグリテック導入支援補助金」の対象となっており、導入費用の半額(上限50万円)が補助されるなど、自治体の支援も始まっています。
3.2. 【無料ツール紹介】勘に頼らない水やりを実現する「このあとてんき」
「データに基づいた農業を始めたいけど、何から手をつけていいか分からない…」という方に最適なのが、同じくGREEN OFFSHOREが提供する無料のWebアプリ「このあとてんき」です。
このツールの画期的な点は、従来の「晴れ」や「曇り」といった曖昧な天気予報ではなく、日射量を「W/㎡」という具体的な数値で予測してくれることにあります。同じ「晴れ」でも、夏と冬では光合成の量、つまり作物が水を必要とする量は全く異なります。
日射量を数値で把握できれば、
• 「明日は日射量が多そうだから、朝のうちにしっかり水やりをしておこう」
• 「曇りが続く予報だから、肥料は少し控えめにしよう」
といった、作物の光合成量を見越した、より科学的で最適な栽培計画を立てることが可能になります。
このアプリは無料で利用でき、手元のスマートフォンでいつでもどこでも確認できるため、まさにデータに基づいた農業への第一歩として最適なツールと言えるでしょう。
これらのツールは、単体でも日々の作業を楽にしてくれる便利なものですが、その真価は、前述したCO2施用などの栽培技術と組み合わせることで発揮されます。次のセクションでは、まさにその相乗効果を実証した驚きの事例をご紹介します。
4. 【合わせ技で効果大!】「局所加温」と「CO2施用」の相乗効果
これまで見てきたように、個々の技術を最適化するだけでも収益向上は期待できます。しかし、複数の技術を賢く組み合わせることで、「コスト削減」と「収量増加」を同時に達成するという、まさに一石二鳥の効果を生み出すことが可能です。ここでは、農林水産省も注目する、ミニトマト栽培における画期的な事例を紹介します。
この技術体系は、「成長点局所加温」と「CO2施用」という2つの技術を、既存の暖房設備を工夫して活用することで実現したものです。
• 仕組みはシンプル
1. 通常は床置きする暖房用の温風ダクトを、ミニトマトの成長点(最も生育が活発な部分)付近に吊り下げて設置します。これにより、ハウス全体ではなく、本当に加温が必要な場所だけを効率的に暖めることができます。
2. そして、CO2発生装置から出るCO2を暖房機の吸気口に誘導し、暖房機の送風機能を使って、同じ温風ダクトからCO2を供給します。これにより、特別な設備を追加することなく、CO2を成長点付近に効率的に届けることができるのです。
• 驚きの効果 和歌山県で行われた実証試験の結果、この「合わせ技」を導入したハウスでは、慣行の栽培方法(温風ダクト床置き、CO2施用なし)と比較して、以下の目覚ましい成果が上がりました。
◦ 暖房費を18%削減
◦ 収量(出荷量)を9.4%増加
• 燃料費を大幅にカットしながら、同時に収量を約1割も増やす。これは農業所得の大幅な増加に直結する、非常に価値の高い成果です。この事例は、高価な最新設備を導入しなくても、既存の設備と科学的な知見を組み合わせることで、大きな経営改善が可能であることを示しています。
5. もっと深く知りたい生産者さんへ:トマトの「特性調査マニュアル」という世界
ここまでは実践的な技術を中心に紹介してきましたが、少し視点を変えて、プロフェッショナルの世界を覗いてみませんか?
農研機構(NARO)が発行している「トマト種 特性調査マニュアル」という資料があります。これは、新しい品種が登録される際に、その特性を客観的に評価するための基準を定めたものです。
このマニュアルを開くと、私たちが普段育てているトマトが、いかに詳細な基準で観察・評価されているかに驚かされるでしょう。
• 草姿: 「有限伸育型」か「無限伸育型」か
• 葉の形: 葉の着生角度、長さや幅、タイプ(羽状か2回羽状か)
• 果実の特性: 大きさ、縦横比はもちろん、果実の縦断面の形は「扁平形」「円形」から
「倒心臓形」まで実に11種類に分類。果実の表皮の光沢の強弱さえも、標準品種と比較した写真付きで評価されます。
• 成分・耐病性: 糖度(Brix)、リコペン含量、黄化葉巻病(TYLCV)や葉かび病などへの抵抗性の有無まで、すべてが標準化されています。
もちろん、このマニュアルをすべて読み込む必要はありません。しかし、「プロの世界ではこれほど深く作物を観察し、データに基づいた評価が行われている」という事実を知ることは、ご自身の栽培管理を客観的に見直し、改善のヒントを見つけるきっかけになるかもしれません。
まとめ:スマート農業は、もう特別なものではない
この記事では、トマト栽培の収益を賢く最大化するための新しい常識、すなわち「低コストな環境制御」「データに基づいた意思決定」「誰もが使える自動化」を連携させるというシステム思考をご紹介してきました。
CO2施用の設定を「低濃度・長時間」に見直すこと。無料の日射量予測アプリで水やりの計画を科学的に立てること。そしてスマートフォンでハウスを遠隔管理すること。これらはもはや、バラバラの技術ではなく、相互に効果を高め合う一つのシステムです。そしてこのシステムは、大規模農家だけでなく、中小規模の経営体にとっても十分に手が届く、身近な選択肢になっています。
変化に対応するのは勇気がいることですが、すべてを一度に変える必要はありません。
• まずは無料アプリ「このあとてんき」を使ってみる。
• 今のCO2発生装置の設定を見直してみる。
そんな小さな一歩から、あなたの農業は確実にアップデートされていきます。この週末に得たヒントが、来週からの栽培、そして未来の経営をより良くする一助となれば幸いです。


