新規就農者はどこで1番苦労する?就農時に苦労したことトップ8
- ishikawa030
- 5 日前
- 読了時間: 4分

新規就農の相談現場では、「家族の反対が心配」「情報が少なくて不安」といった声がよく出てきます。しかし、実際に就農した人たちに「就農時に何で1番苦労しましたか?」と聞くと、イメージとは少し違う結果が見えてきます。
この記事では、全国農業会議所の「新規就農者の就農実態に関する調査」データを使って、新規就農者が「就農時に苦労したこと」を数字で整理します。
■新規就農者が就農時に苦労したことトップ8

最新調査(2021年)の結果を、上記の図で示しましたが、割合の高い順に並べると次のようになります。
農地の確保:72.8%
資金の確保:68.6%
営農技術習得:57.7%
住宅の確保:23.3%
地域の選択:17.1%
相談窓口さがし:15.0%
家族の了解:11.5%
その他:11.1%
まず図から読み取れるのが、「農地の確保」と「資金の確保」は7割前後の人が挙げています。要するに、多くの新規就農者にとって農地とお金はほぼ“共通の苦労”になっている、ということです。
3位の「営農技術習得」も57.7%と半数を超えており、ここまでが明確に“別格の3強”です。一方で、「相談窓口さがし」「家族の了解」「地域の選択」などは2割未満にとどまり、相対的には“苦労の中心”ではないことが分かります。
■この10年で何が変わり、何が変わっていないのか
これらの調査は、2013年・2016年の調査でも行われています。主要項目の推移は以下の通りです(今回調査=2021年)。

細かく見ると多少の増減はありますが、10年スパンで見れば、「農地」「資金」「営農技術」で苦労する構図はほとんど変わっていないと言っていいでしょう。住宅の確保も2割台で安定しており、「就農時の現実的な悩み」の一つとして定着しています。
逆に、「相談窓口さがし」や「家族の了解」などは、前々回・前回の調査よりも割合がやや低下しています。これは、就農相談窓口や情報発信の体制が整ってきたこと、また、そもそも家族の同意をある程度得た上で就農に踏み切る人が増えている可能性も考えられます。
■「農地・資金・営農技術」の3点セットが重い理由
なぜこの3つがここまで重くのしかかるのかを整理します。
農地の確保 農地はそもそも量が限られており、空いていても「誰に貸すか」は地域の人間関係や信頼関係で決まります。「やる気はあるが、貸してもらえる農地が見つからない」という状況は珍しくありません。農地中間管理機構などの制度はありますが、「希望する作目や規模に合う農地を、通える場所で確保する」のは、今もなお一番の難関です。
資金の確保 ハウス建設、機械・施設、苗代や肥料代、生活費のブリッジ資金…就農初期はとにかくお金が出ていきます。融資や補助金の制度は整ってきましたが、「借りる責任」の重さや、「将来きちんと返せるか」という不安は消えません。数字が示す通り、ほとんどの新規就農者にとって、資金繰りは常に頭から離れないテーマです。
営農技術の習得 栽培技術だけでなく、病害虫の防除、作業計画、出荷調整、販売戦略まで含めて身につける必要があります。研修や指導機関は増えていますが、「自分のほしい作目・ほしい規模・ほしいスタイルに合う技術を教えてくれるか」は別問題です。結果として、多くの人が「やりながら覚える」状態になり、その過程で失敗やロスが積み重なります。
この3つはそれぞれ独立した課題でありながら、実際にはセットで絡み合います。農地が確保できなければ事業計画も組めず、資金も付きにくい。技術に不安があると収量見込みが立たず、融資を受ける際の説得力にも影響する。だからこそ、「農地・資金・営農技術の三本柱をどう同時に組み立てるか」が、新規就農の勝負どころだと言えます。
■これから就農を目指す人へ
これから新規就農を目指す人にとって、このデータが示していることはシンプルです。
まず「農地」「資金」「営農技術」の3つに正面から向き合う
相談窓口探しや家族の説得も重要だが、「本当のボトルネックはどこか」を早めに見極める
具体的には、次のような順番で準備していくイメージが現実的です。
作目と規模のイメージを固める(それによって必要な農地面積・資金・技術レベルが決まる)
研修先・指導者を確保する(技術と合わせて、地域の農地情報も得やすくなる)
農地の目途をつけながら資金計画を詰める(融資・補助金・自己資金を組み合わせる)
最後に住宅やライフスタイルの細部を詰める(通勤距離や家族の生活との調整)
就農準備は迷いや不安がつきものですが、まずは「農地・資金・技術」という核心部分を押さえ、段階的に進めていくことで、無理のない形で就農への道筋が見えてきます。焦らず確実に、一歩ずつ積み上げていくことが大切です。
※本記事のデータは、全国農業会議所『新規就農者の就農実態に関する調査結果(2021年度)』(https://www.be-farmer.jp/uploads/statistics/YV447s7CQjwBYJ3OtEht202203231858.pdf)および2013・2016年度調査の集計表をもとに作成しています。


