週末に読みたい、データで読み解く、ワンランク上のハウス栽培術
- GREEN OFFSHORE info チーム

- 15 時間前
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はじめに:週末のコーヒータイムに、栽培のヒントを
いつもお疲れ様です。平日は日の出から日没まで、ハウスの中での作業に追われ、なかなかゆっくり考える時間もないかと思います。だからこそ、少し落ち着いた週末のコーヒータイムに、日々の作業をちょっとだけ違う角度から見直してみませんか?
この記事は、そんな忙しい生産者の皆さまのために、毎日の頑張りを「もっと楽に、もっと賢く」するためのヒントを詰め込みました。テーマは「データ活用」。難しく聞こえるかもしれませんが、実はとてもシンプルで、すぐにでも始められることばかりです。経験と勘に、ほんの少しの科学的な視点を加えるだけで、栽培は驚くほど変わります。
今回は、特に管理がデリケートなイチゴ、そして施設園芸の作物としてはメジャーなトマトやナスを例に、科学的な知見に基づいた具体的な栽培管理のポイントを解説します。さあ、一緒にワンランク上のハウス栽培を目指しましょう。

1. イチゴ栽培:「見えない要素」を味方につけて収量と品質をアップさせる方法
イチゴ栽培は、目に見える果実の美しさとは裏腹に、非常に繊細な管理が求められます。日々の成長を見守ることはもちろん大切ですが、安定した収量と品質を実現するためには、目には見えない「窒素量」「地温」「排液EC」といった要素の管理が、実は成功の鍵を握っています。
収量アップの鍵は「窒素」の最適化
肥料の三大要素の一つである窒素。多すぎても少なすぎてもイチゴの生育に影響を与えますが、品種によってその要求量が異なることはご存知でしょうか。
熊本県農業研究センターの研究によると、熊本県オリジナルの人気のイチゴ品種「ゆうべに」は、他の品種と比較して窒素の要求量が低い傾向にあることが明らかになりました。具体的には、「総収量100gあたりの総窒素吸収量は250mg」と推定されています。これは、これまで他の品種と同じ感覚で施肥をしていた場合、過剰になっていた可能性があることを示唆します。
これがどれくらいの違いかと言うと、例えば熊本県の既存品種「ひのしずく」の土耕栽培における窒素施肥量の目安は10aあたり23~25kgとされています。収量目標にもよりますが、『ゆうべに』はこれまでの品種と同じ感覚で施肥をすると過剰になりがちで、データに基づいて施肥量を最適化すれば、肥料コストを数割単位で削減できる可能性があることをこの研究は示唆しています。
品種ごとの正確な窒素要求量を知ることで、無駄な肥料コストを削減し、作物体にとって最適な環境を整えることができます。データに基づいた施肥管理は、コスト削減と安定収量の両立への第一歩です。
地温「プラス2℃」がもたらす驚きの効果
冬場の低温期、イチゴの生育はどうしても鈍化しがちです。しかし、この時期の生育を少しだけ後押しすることで、春先の収量に大きな差が生まれます。
JAあいち経済連が行った実証実験では、イチゴ品種「紅ほっぺ」のクラウン(株元)周辺を温湯チューブで加温し、最低培地温度を無加温区より約2℃高く維持したところ、なんと可販果収量が16%も増加したという結果が出ています。
たった2℃の違いが、頂果房の肥大を促し、次の腋果房の成長を早めることで、収穫の波を途切れさせず、結果的に大きな増収に繋がるのです。冬場の「見えない根元の温度管理」がいかに重要かを示す、非常に興味深いデータです。
トラブルを未然に防ぐ「排液EC管理」
ハウス栽培、特に高設栽培では「排液」の管理が重要です。その中でも「EC」という指標に注目してみましょう。
EC(電気伝導率)とは、簡単に言えば「培地に含まれる肥料の濃度の目安」です。これが高すぎると、人間でいうところの"濃い味付け"の状態になり、根が水分を吸い上げにくくなります。その結果、新葉の先が枯れる「チップバーン」といった生理障害を引き起こす原因にもなります。
大分県の栽培マニュアルでは、緩効性肥料と液肥を併用する場合の排液ECの適正範囲を0.3~0.6mS/cmとしています。この範囲を基準に、定期的に排液のECをチェックすることで、肥料が効きすぎているのか、それとも不足しているのかを客観的に判断できます。まさに、作物の"健康診断"のような役割を果たしてくれるのです。
このように、イチゴ栽培では窒素、地温、ECといったデータに基づいた管理が、収量と品質を左右します。そして、こうした考え方は、トマトやナスといった他の作物にも応用できる、非常に重要な管理の基本なのです。
2. トマト・ナス栽培:日射量とCO2を制する者が、栽培を制す
トマトやナスのような果菜類を安定して多収生産するためには、水や肥料はもちろんのこと、「日射量」と「CO2濃度」という、植物の光合成に直結する二つの環境要因を最適化することが極めて重要になります。

水やりの最適解は「日射量」が知っている
「今日の水やり、量はどうしようか?」――これは、多くの生産者が毎日悩む問題ではないでしょうか。「昨日は晴れたから多めに」「今日は曇りだから少なめに」といった経験則も大切ですが、より精度を高める鍵は「日射量」にあります。
JAあいち経済連が行ったナス栽培の研究では、作物の吸水量(給液量-排液量)が、日射量の推移と非常に強く連動していることがデータで示されています。
図1:ナスの吸水量は日射量の増減と強く連動している。 (出典: JAあいち経済連)
つまり、植物は太陽の光エネルギーを使って光合成を行い、その過程で水を大量に必要とするため、日射量が多ければ多いほど、自然と水を吸い上げる量も増えるのです。この原則を理解すれば、「天気」という曖昧な情報ではなく、「日射量(MJ/㎡)」という具体的なデータに基づいて灌水量を調整することの重要性が見えてきます。これにより、水のやりすぎによる根腐れや、水不足による生育不良といったリスクを大幅に減らすことができます。
ハウス内の「CO2不足」が見過ごせないワケ
植物の光合成には、「光」「水」そして「CO2(二酸化炭素)」が必要です。特に冬場、保温のためにハウスを締め切っていると、意外な落とし穴があります。
下の図は、冬場の締め切ったハウス内のCO2濃度の推移を示したものです。
図2:締め切ったハウス内では、日中の光合成によりCO2濃度が外気レベル(約400ppm)を大きく下回ってしまう。 (出典: あいち型植物工場マニュアル(トマト編))
ご覧の通り、植物が光合成を活発に行う日中、ハウス内のCO2はどんどん消費され、外気のCO2濃度(約400ppm)よりも低い状態にまで落ち込んでしまいます。これは、光合成の"材料"が足りていない状態であり、せっかくの日射を最大限に活かしきれていないことを意味します。
ここでCO2施用機などを活用して不足分を補ってあげると、光合成が促進され、果実の肥大や空洞果の減少といった、収量・品質の向上に直接繋がります。
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日射量、CO2濃度、灌水量、そして温度や湿度。これら多数の要素を、常に変化する天候の中で、経験と勘だけで最適に管理し続けるのは至難の業です。しかし、現代にはこれらの課題をテクノロジーでいとも簡単に解決してくれるツールが存在します。
3. 【実践編】明日から使える!栽培管理を「楽に、賢く」するツール
ここまで、データに基づいた栽培管理の重要性について解説してきました。「理論は分かったけど、具体的にどうすればいいの?」と感じた方も多いでしょう。ご安心ください。ここからは、高価な設備投資をしなくても、誰でも手軽に始められる具体的なツールをご紹介します。
まずは「予測」から始めよう:無料の日射量予測アプリ『このあとてんき』
灌水計画を立てる上で最も重要な「日射量」。これを手軽に予測できるのが、GREEN OFFSHORE社が提供する無料のWebアプリ『このあとてんき』です。
従来の「晴れ」「曇り」といった曖昧な天気予報とは一線を画し、ピンポイントの地域に対して、時間ごとの日射量を具体的な数値(W/㎡)で予測してくれます。
• メリット:
◦ 前日の夜に翌日の日射量を確認し、精度の高い灌水計画を立てられる。
◦ 経験の浅い方でも、データに基づいて適切な判断ができるようになる。
◦ スマートフォンやPCからいつでもどこでも確認でき、完全に無料で利用できる。
まずはこのアプリで「日射量を数値で把握する」という習慣をつけるだけで、あなたの栽培管理は大きく変わるはずです。例えば、今週末にでもご自身の圃場の場所を登録し、1週間の日射量予測の推移を眺めてみてください。そして、ご自身の過去1週間の灌水記録や感覚と比べてみましょう。「思ったより日射が強い日だったな」「この曇りの日は、これくらいの日射量なのか」といった発見が、データ活用の第一歩です。
「自動化」で、時間と手間から解放される:スマート農業システム『GO SWITCH』
日射量を予測できたら、次はそのデータに基づいて灌水や窓の開閉を「実行」するステップです。しかし、毎日ハウスを回って手動で調整するのは大変な手間です。その手間から解放してくれるのが、同じくGREEN OFFSHORE社のスマート農業システム『GO SWITCH』です。
このシステムの最大の魅力は、「シンプルさ」と「後付けできる手軽さ」にあります。
• スマートフォン一つで遠隔・自動制御 お手持ちのスマホから、灌水ポンプやハウスの側窓(巻上げ機)、ファン、暖房機などを遠隔操作。タイマー設定はもちろん、自動制御も可能です。
• データに基づいた自動化を実現 (株)IT工房Z社製の環境センサー「あぐりログ」などと連携させることで、これまで解説してきた課題を統合的に解決できます。例えば、日射量データに基づいて灌水量を自動で最適化する(日射比例灌水)、あるいはハウス内温度と連動して暖房機や側窓を自動制御するといった、データに基づいた理想的な環境制御を人の手を介さず実現します。
• リーズナブルに導入可能 高価な専用の制御盤は不要。今お使いのハウス設備に『GO SWITCH』の小さなリモートスイッチを取り付けるだけで、すぐにスマート農業を始めることができます。
いきなりハウス全体を自動化する必要はありません。まずは最も管理に手間がかかっている灌水ポンプ1つ、あるいは毎日の開閉が負担な側窓1箇所から始めてみる、というスモールスタートが可能です。
【ご参考:価格情報】 公式サイト情報では、初期費用10万円から、月額7,000円から利用可能です。(※2024年8月時点の情報です。最新の情報は公式サイトでご確認ください)
※豊橋市の生産者の皆さまへ: 『GO SWITCH』は、市の「アグリテック導入支援補助金」(令和7年度)の対象製品です。導入費用の最大1/2(上限50万円)が補助されます。
『このあとてんき』で栽培計画を「予測」し、『GO SWITCH』でそれを「自動実行」する。この流れこそが、週末に考えた理想の栽培を、日々の負担を増やすことなく実現する、最も賢い方法と言えるでしょう。
4. まとめ:スマート農業は、もっと身近な存在に
この記事では、イチゴ、トマト、ナスを例に、データに基づいた栽培管理がいかに収量と品質の向上に繋がるか、そしてそれを実現するための具体的なツールをご紹介しました。
• イチゴでは「窒素量」「地温」「排液EC」
• トマト・ナスでは「日射量」「CO2濃度」
これらの"見えない要素"を数値で管理することが、安定生産への近道です。
「スマート農業」や「データ活用」と聞くと、大規模な投資や専門知識が必要だと感じるかもしれません。しかし、今回ご紹介したように、無料の予測アプリや、今あるハウスに後付けできるシンプルな機器を活用すれば、誰でも今日からその第一歩を踏み出すことができます。
これまで解説してきた窒素、地温、日射量、CO2の管理は、すべて「光合成の最大化」という一つの目標に繋がっています。日々の細かな調整作業をテクノロジーに任せることで、生産者の皆さまは、作物の状態をじっくり観察し、「どうすればもっと光合成を促進できるか」といった、より創造的でゆたかな栽培の実現に集中できるようになるのです。スマート農業は、決して遠い未来の話ではなく、あなたの栽培を力強くサポートしてくれる、もっと身近な存在なのです。
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参考資料
• https://www.pref.shizuoka.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/058/706/00_ichigo_manual.pdf


