「令和の百姓一揆」が問いかけるもの。なぜ日本の補助金は農家の「懐」に届かないのか?
- Mitsuyoshi Oki
- 2025年12月29日
- 読了時間: 8分
肥料や飼料、燃料の高騰が止まりません。 廃業を余儀なくされる農家が相次ぐ中、「もっと現場に直接的な支援を」と求める動き、いわゆる「令和の百姓一揆」とも呼ばれるデモや集会が各地で注目を集めています。
彼らが求めているのは、単なる「ばら撒き」ではありません。欧米では当たり前に行われている「所得補償(直接支払)」の拡充です。
なぜ日本の農家はこれほどまでに苦しいのか。 そこには、日本独特の「お金が途中で消える(ように見える)予算の使い道」の構造的な問題が隠されています。

欧米は「現金支給」、日本は「割引クーポン」
まず、世界と日本の決定的な違いを見てみましょう。
欧米(特にEU)の農業予算の使い方はシンプルです。 「農家の銀行口座に、現金を直接振り込む」 これが主流です。「環境を守る対価」や「価格下落の補填」として、経営のベースとなる現金が支給されます。いわば「ベーシックインカム」に近い仕組みがあり、これが不況時の防波堤になります。
一方、日本はどうでしょうか。 日本の予算の多くは、公共事業(土地改良など)や、機械・施設の導入補助に使われます。 「新しいトラクターを買うなら半額出しますよ」 「立派な水路を作ってあげますよ」 という形です。つまり、農家にとっては「現金が入ってくる」のではなく、「投資する際の割引クーポン」がもらえる、という構造なのです。
これでは、日々の生活費や、高騰する肥料代の支払いには使えません。
ガソリン補助金と同じ?「中抜き」構造の正体
この「エンドユーザー(生活者)に現金を渡さず、業界団体や企業にお金を渡す」という構造、どこかで見たことがないでしょうか?
そうです。「ガソリン代の補助金」と全く同じ仕組みです。
ガソリン価格が高騰した際、政府は私たちドライバーに現金を配ったでしょうか? いいえ、配りませんでした。 政府がお金を渡したのは、石油元売り各社(ENEOSなどの大元)です。「元売りに補助金を出すから、卸値を下げてね」という間接的な介入を行いました。
その結果、私たちは「なんとなく数円安い…のかな?」という実感しか持てず、制度の恩恵が透明化されにくい状況が生まれました。
農業もこれと同じです。 予算の多くは、ゼネコン(土地改良)、農機メーカー(機械補助)、JAなどの流通組織(流通対策)を経由して使われます。 「業界全体」にはお金が落ちていますが、末端の「個々の農家」の通帳には、1円もお金が入ってこない。 これが、日本の補助金行政の伝統的な特徴です。
なぜ日本は「直接」配らないのか?
では、なぜ日本は欧米のようにシンプルに農家へ配らないのでしょうか? そこには日本特有の事情があります。
1. 「バラマキ批判」への恐怖と「ハコモノ」信仰
日本では、個人に現金を配ることに対して「働かざる者食うべからず」という世論の反発が強く、「選挙目当てのバラマキだ」と批判されやすい土壌があります。 一方で、ダムや農道整備、施設建設といった「目に見える成果物(ハード)」にお金を使うことは、「将来への投資」として肯定されやすい傾向があります。
2. 配る手間の問題(事務コスト)
全国に何百万人もいる個人(農家やドライバー)の口座を把握し、所得状況に合わせて現金を振り分けるのは、マイナンバーなどのインフラが未熟な日本では膨大な事務コストがかかります。 それよりも、数社〜数十社の「元売り企業」や「建設会社」にまとめて何十億円を渡すほうが、行政としては圧倒的に楽で、スピーディーにお金を動かせるのです。
3. 既存産業の保護
これが最も根深い問題ですが、農業予算は「農家のため」であると同時に、「建設業」や「農機メーカー」を養うための予算でもあります。 農家に現金を渡しても、彼らが機械を買うとは限りません(貯金するかもしれません)。しかし、「機械を買うための補助金」にすれば、確実にメーカーにお金が落ちます。経済波及効果を狙うあまり、農家の生存権が後回しにされている側面は否めません。
■欧米はなぜ「経済効果」を捨ててまで「現金のバラマキ(所得補償)」を選んだのか?
ここまでで、日本の農業予算は「関連産業(メーカー・建設)」への経済波及効果を重視し、欧米は「農家個人」への直接補償を重視しているという話をしました。
ここで一つの疑問が浮かびます。 「欧米は、経済波及効果を無視しているのか?」 「農家にただ現金を渡すことに、どんな国家的メリットがあるのか?」
実は、欧米もかつては日本と同じような政策をとっていました。しかし、ある「歴史的な失敗」を経て、現在の形に進化させたのです。欧米が「直接支払」に見出している3つの巨大なメリットについて解説します。
1. 歴史的教訓:「作らせる政策」は環境破壊と財政破綻を招いた
かつてEU(欧州連合)も、日本のように「生産量に応じた補助」や「価格維持」を行っていました。たくさん作れば作るほど儲かる仕組みです。
その結果、何が起きたか?
「バターの山、ワインの湖」と呼ばれる事態です。 補助金目当ての過剰生産が起き、消費しきれない農産物が廃棄され、無理な増産によって農薬汚染や土壌劣化といった深刻な環境破壊を招きました。
「産業としての経済効果」を追い求めた結果、環境負荷と在庫管理コストで財政がパンクしたのです。 この反省から、EUは「デカップリング(切り離し)」という大改革を行いました。「何を作るか、どれだけ作るか」と「補助金」を切り離し、「農地を適正に管理していること」に対してお金を払う方針に転換したのです。
2. メリット①:農業を「産業」ではなく「公共財」とみなす
欧米が直接支払を行う最大のロジックはこれです。
「農家は、食料を作るだけでなく、国土の庭師(Landscaper)である」
農地には、洪水の防止、美しい景観の維持、生物多様性の保護といった機能(多面的機能)があります。これらは市場で売買できません。 もし農家が倒産して耕作放棄地になれば、国は荒れた国土の管理に莫大なコストを払うことになります。
日本: 農業を「ものづくり産業」として捉え、産業振興にお金を使う。
欧米: 農業を「環境保全サービス」として捉え、管理料(給料)を払う。
欧米の国民にとって、税金で農家を支えることは「美しい田園風景と環境を守るための必要経費」として納得されています。これが最大のメリットです。
3. メリット②:農家の「経営判断」が正常化する
実は、経済的な観点でも「直接支払」には大きなメリットがあります。それは「市場原理が機能する」ということです。
日本の現状を見てください。「補助金が出るから」という理由で、本当は不要な高スペックな機械を買ったり、需要のない作物を作ったりするケースがないでしょうか? 補助金が経営判断を歪めてしまうのです。
一方、欧米の直接支払は「使途自由な現金」です。 農家は生活の不安(ベースの収入)が解消された状態で、「本当に利益が出る作物は何か?」「本当に必要な投資は何か?」を冷静に判断できます。
補助金目当ての無駄な投資が減る。
本当に需要のある作物が作られるようになる。
結果として、筋肉質で自立した経営体が育つ。
「特定の業界(メーカー等)」への即効性ある波及効果は減りますが、長期的には「無駄な公共投資」が減り、農業界全体が効率化されるという経済的メリットがあるのです。
4. メリット③:WTO(国際貿易ルール)での攻撃を避ける
これは政治的なメリットですが、非常に重要です。 「価格維持」や「輸出補助金」は、貿易を歪めるとしてWTO(世界貿易機関)のルールで削減を求められます(イエローボックス)。
しかし、「生産量と無関係な直接支払(所得補償)」は、貿易に影響を与えにくい「グリーンボックス」として扱われ、削減義務がありません。 欧米は、自国の農家をガッチリ守りつつ、国際的な批判もかわすために、極めて戦略的に「直接支払」という手法を選んでいるのです。
制度の狭間で、経営者はどう動くべきか
国の政策には「生産性向上」という正義があり、農家の訴えには「生存権」という正義があります。しかし、国の巨大な予算構造やシステムが、明日すぐに欧米型へ転換することは現実的ではありません。
現状のルール(日本型モデル)の下で農業経営を続ける以上、経営者自身がこの「構造的なキャッシュ不足」のリスクに対策を講じる必要があります。
補助金があるからといって、過度な設備投資で手元の現金を減らさない。
資産を「所有」して固定費を高めるのではなく、「利用(リース・シェア)」に切り替えて変動費化し、身軽にする。
政策の是非を問う視点と同時に、今の制度環境の中でいかに生存確率を高めるか。 私たちGREEN OFFSHOREが提案する「アセットライト(持たざる経営)」やリース活用は、この日本型農業政策の「隙間」を埋める、現実的な防衛策の一つになり得ると考えています。
この記事を書いた人・会社
沖 光芳・GREEN OFFSHORE(グリーンオフショア)
最後までお読みいただきありがとうございます。
私たちGREEN OFFSHOREは、こうした「日本の農業市場」を守り、生産者の負担を減らすために活動しているベンチャー企業です。今回の記事のような業界への提言から、日々の栽培管理まで、幅広く発信しています。
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