なぜ建設業は機械を買わないのか?農業が見習うべき「持たざる経営」と補助金の罠
- Mitsuyoshi Oki
- 9 時間前
- 読了時間: 9分
「不景気や危機に強いのは、固定費が低い会社である」 「できるだけ資産を持たない(アセットライト)経営が正解だ」
経営セミナーやビジネス書では、これが鉄則のように語られます。しかし、巨大なハウスや高額なトラクターなど、「モノ」がなければ始まらない農業の現場において、このセオリーは本当に当てはまるのでしょうか?
今回は、急速に進む「農地の集積」と、年々激甚化する「気象災害」という2つの現実から、これからの農業経営が向かうべき「身軽な経営」について考えてみます。

なぜ「資産を持たない」ほうが強いのか
まず、一般的な経営セオリーのおさらいです。 P/L(損益計算書)において、コストは「変動費」と「固定費」に分かれます。土地、建物、機械などの「資産(B/S)」を多く抱えると、それに伴って減価償却費、固定資産税、メンテナンス費用といった「固定費(P/L)」が膨らみます。
資産が多い=固定費が高い=損益分岐点が高い
つまり、「たくさん売らないと赤字になる体質」が出来上がります。景気が良い時は利益が出ますが、ひとたび売上が落ちると、削減できない固定費が重くのしかかり、一気に経営危機に陥ります。
だからこそ、IT企業や小売業などは、在庫を持たない、店舗を賃貸にするなどして、徹底して身軽になろうとするのです。
農業特有の「重さ」と「補助金の罠」
では、農業はどうでしょうか。 農業は構造的に建設業と非常に似ています。土地が必要で、高額な専用機械(トラクター等)や設備(ビニールハウス、ガラスハウス等)への依存度が高い「装置産業」の側面が強い産業です。
さらに、農業特有の「補助金」がこの重さに拍車をかけます。 「半額補助が出るから」と、身の丈以上の高スペックな機械や施設を導入してしまう。その結果、B/Sには資産が計上されますが、同時に高額な修繕費や更新費という「見えない重り」を背負い込み、経営の柔軟性を失ってしまうケースが後を絶ちません。
■会計の原則法と圧縮記帳について
ここで、仮に1000万円の設備投資で半額の500万円に補助金が適用とされる場合、会計はどのようになるのでしょうか考えてみましょう。 基本的には全額が資産として減価償却、半額(補助金が)が営業外収益、という認識で合っています。
これは会計の「原則(原則法)」と言うものです。
ただ、日本の実務(特に中小企業や農業経営)では、税金対策のために「圧縮記帳(直接減額方式)」という特例を使うケースが圧倒的に多いです。
この「原則」と「実務(圧縮記帳)」の違いを知っておくと、この後の「補助金の罠」がより深く理解できるかと思います。
1. 原則法
B/S(資産): 1,000万円(全額)で計上
P/L(収益): 500万円(補助金)をその年の「利益」として計上
【問題点】 初年度に500万円の利益がいきなり出るため、その年に多額の税金(法人税・所得税)がかかってしまいます。 キャッシュが出ていくのに税金も取られるため、多くの経営者はこれを嫌がります。
2. 圧縮記帳(実務でよく使われるパターン)
補助金で受け取った分を、資産の取得価額から差し引いて帳簿に載せる方法です。
B/S(資産): 500万円(全額-補助金)で計上
P/L(収益): 補助金益と圧縮損を相殺し、実質ゼロにする
【メリット】 初年度の課税を回避し、税金の支払いを将来に繰り延べることができます(減価償却費が減るため、将来の利益が増える形になります)。
しかし、この「圧縮記帳」の仕組みこそが、さらに深い「補助金の罠」になります。
罠①:B/Sが「軽く見えてしまう」錯覚
圧縮記帳を使うと、1,000万円の機械が帳簿上は「500万円の資産」として載ります。これにより、B/S上はアセットライト(資産が軽い)に見えてしまい、「身の丈に合わない高額な資産を持っている」という危機感が薄れてしまいます。
罠②:維持費は「定価」にかかってくる
ここが最大のポイントです。帳簿上の価値が500万円になっても、現物は1,000万円のスペックのままです。
修理費・部品代: 1,000万円の機械の部品代がかかります。
固定資産税(償却資産税): 自治体によりますが、評価額は取得価額ベースで計算されることが多いです。
廃棄コスト: 巨大な設備の撤去費用は、帳簿価格に関係なく実費がかかります。
実務上は「圧縮記帳」で資産を小さく見せていることが多いです。
しかし、「帳簿上の数字(B/S)は小さくできても、現実に降り掛かってくるランニングコストや災害リスク(実体)は1,000万円規模のまま変わらない」 という点が、経営を圧迫する本当の正体です。
この点を踏まえると、ブログの主張である「安易な所有はリスクである」という論旨がさらに強固になります。
さらに言えば、「圧縮記帳」という専門用語や、その会計的な仕組みまで深く理解している農家さんは、かなり少数派(あるいは、大規模法人でCFO的な役割がいるところに限定される)だと思います。
現場の実態としては、以下のような認識が一般的ではないでしょうか。
「税金を払わなくて済む魔法」という認識
多くの農家さんは、会計処理をJA(農協)の指導センターや、顧問税理士に任せています。 補助金が入った際、担当者からこう言われます。
「このままだと補助金500万円が利益になって、ガッツリ税金取られますよ。でも、こういう処理(圧縮記帳)をしておけば、今年の税金はかかりません。 やっておきますか?」
これに対して「あ、じゃあお願いします」とハンコを押すだけ、というケースがほとんどです。 そのため、「将来の減価償却費が減る(税金の先送り)」というデメリットや、「帳簿価額と実勢価格のズレ」まで意識している方は少ないです。
「安く買えた」という錯覚の定着
これが最大の問題ですが、圧縮記帳によってB/S(帳簿)上の数字も小さくなるため、農家さんの頭の中では完全に「1000万円の機械」ではなく「500万円の機械」として記憶されてしまいます。
意識: 「500万円の機械だから、修理費もそれなりだろう」
現実: 「1000万円の高級機なので、部品交換だけで30万円かかります」
このギャップに直面したとき初めて、「維持費が高いな…」と気づくことになります。
「借り物の土地」に巨額投資をする怖さ
しかし今、この「重装備な農業」を強制的に見直さざるを得ない大きな変化が起きています。それは「農地所有の構造変化」です。
農業就業人口の減少に伴い、離農した土地が一人の担い手(経営者)に集中し、管理面積が急拡大しています。ここで重要なのは、拡大している農地のほとんどが「購入した土地」ではなく「借りている土地(借地)」だという点です。
かつての農家は「自分の土地」で農業をしていました。自分の土地であれば、そこに資産を積み上げても理にかなっています。 しかし、これからの大規模農家は違います。地主の意向でいつ返還を求められるか分からない、契約更新の保証もない「他人の土地」で勝負しなければなりません。
実際、ある農家さんにヒアリングをした際、経営の悩みをこう吐露されていました。
「規模拡大はしたいですが、やはり借り物の土地に対して多額の設備投資をするのには抵抗があります」
これは経営者として非常に健全で、切実な感覚です。流動的な基盤(借地)の上に、固定的な巨額資産(設備)を積み上げるのは、リスク管理の観点からバランスが悪すぎるからです。
「気候変動」が資産を一瞬でゴミにする
そしてもう一つ、私たちが直視しなければならないのが「気候変動リスク」です。
近年、台風の大型化、局地的な竜巻、線状降水帯による河川の氾濫など、想定を超える災害が毎年のように発生しています。
私の身近な地域でも、こんな事例がありました。 ある農家さんが新しいビニールハウスを建設し、内部の環境制御システムなどの機械類も充実させました。しかしその後、大雨による河川の氾濫が発生。ハウス内は1メートル以上冠水し、設置していた高価な機械や制御盤が一瞬ですべてダメになってしまったのです。
「資産を持つ」ということは、「その資産が被災して価値がゼロになるリスクを抱え込む」ことと同義です。
もちろん保険でカバーできる部分もありますが、再建までの機会損失や、保険料の高騰、精神的なダメージは計り知れません。気候変動で災害頻度が増している今、特定の一箇所に巨額の固定資産を集中させることは、経営にとって最大級のリスクになりつつあります。
「所有」から「利用」へ。農業もアセットライトの時代
「借地という不安定な基盤」と「災害という不可抗力」。 この2つのリスクに挟まれた現代の農業において、生き残る道は自然と(むしろ強制的かもしれませんが)「アセットライト化」に向かいます。
建設業界では、現場が変わるごとに必要な重機をレンタル・リースするのが当たり前です。農業も同様に、以下のようなスタイルが標準になっていくでしょう。
機械は買わずにリース・レンタルで調達する
繁忙期だけ必要な機械はシェア、または作業受託に出す
設備は、撤退や移設が容易なものを選ぶ
「自分のトラクターを持って一人前」という所有へのこだわりは、過去のものです。他の産業と同じように、リースなどを積極的に利用してB/Sをスリム化し、強靭な経営基盤を築く必要があります。
私たちが目指す「持たざる農業」の未来
こうした「資産を持たない経営」への転換こそが、これからの農業が生き残るための鍵になると私たちは確信しています。 しかし、現状の農業界には、これを実現するための金融商品やサービスがまだまだ不足しています。
制御システム「GO SWITCH」自体は安価ですが、それを動かすためのモーターや工事費を含めると、どうしても初期投資が膨らんでしまう。「便利になるのはわかるが、借地のハウスにまた資産を増やすのは怖い」——そんな農家さんの懸念は、痛いほど理解できます。
だからこそ、私たちは今、「システムを買う」のではなく「機能を使う」という新しい選択肢を作りたいと考えています。 機器一式を資産として購入するのではなく、サブスクリプションやリースのような形で、月々の経費として利用できる仕組み。これがあれば、初期投資のハードルは劇的に下がり、撤退や移転のリスクも軽減できるはずです。
金融機関・資材メーカーの皆様へ
この「農業のアセットライト化」は、一企業の努力だけでは実現できません。 気候変動や農地事情の変化に負けない、しなやかで強靭な農業経営を支えるために、新しいファイナンスの仕組みを一緒に作りませんか?
「現場のリスクを減らし、挑戦を支える金融モデル」にご関心をお持ちの金融機関様、資材会社様。ぜひ一度、私たちとディスカッションさせてください。 現場のリアルなデータとニーズを持つ私たちとなら、きっと新しい解決策が描けるはずです。
この記事を書いた人・会社
沖 光芳・GREEN OFFSHORE(グリーンオフショア) 最後までお読みいただきありがとうございます。 私たちGREEN OFFSHOREは、こうした「日本の農業市場」を守り、生産者の負担を減らすために活動しているベンチャー企業です。今回の記事のような業界への提言から、日々の栽培管理まで、幅広く発信しています。
▼ 最新情報・議論に参加する 🐦 [X (Twitter)](https://x.com/GreenOffshore06) :農業経営や業界ニュースへの考察をつぶやき中 📷 [Instagram](https://www.instagram.com/greenoffshore22/) :スマート農業の現場写真や動画を公開中 ▼ 私たちの取り組みについて 🏢 [会社案内・ビジョンを見る](https://www.greenoffshore.jp/about) 📱 [スマホでかんたん自動化『GO SWITCH』](https://www.greenoffshore.jp/product)


