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収量アップとコスト削減を両立!データに基づくなす栽培の新常識「日射比例かん水」導入ガイド

はじめに:なぜ今、なす栽培で「水管理のDX」が求められるのか


なすの促成栽培は、収穫期間が9月から翌年6月までと長期にわたり、その間の栽培管理は複雑で、生産者の方々には多大な労力が求められます。日々の天候の変化に気を配りながら、水やりや追肥、整枝、収穫といった作業を続けることは、まさに職人技と言えるでしょう。


しかし、経験と勘だけに頼る栽培には限界も見え始めています。なすの生産量で国内トップを走る高知県や熊本県といった先進産地では、収量と品質を高いレベルで安定させるため、環境制御技術の導入が積極的に進められています。これは、気候の変動が激しくなる中で、安定した農業経営を実現するための必然的な流れと言えます。


本稿では、こうした課題を解決する鍵として、植物生理に基づいた最適な水管理を実現する「日射比例かん水」技術に焦点を当てます。この技術がいかにして収量と品質の向上に貢献するのか、その科学的根拠と具体的なメリットを解説します。さらに、スマート農業システム「GO SWITCH」のような現代的なツールを活用することで、いかにコストを抑えながらこの先進技術を導入し、経営改善につなげられるかを具体的かつ分析的に解説します。


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1. なぜ「最適な水やり」が、なすの収益を左右するのか?


なす栽培において、水管理は単なる日々の作業ではありません。それは収量と品質、ひいては経営収益そのものを決定づける、極めて戦略的な要素です。植物生理学的な根拠と、不適切な管理がもたらす経営的損失を分析することで、その重要性を明らかにします。



植物生理学的な根拠の提示


植物は、光合成を行うために気孔を開いて二酸化炭素を取り込みますが、その際に同時に水分を蒸散させます。光合成が活発になる、すなわち日射量が多い時間帯ほど、植物はより多くの水を必要とします。JAあいち経済連の養液栽培試験データに「ナスの養液栽培における給液管理技術について」という項目があります。そこの図2を見ると、植物の「見かけの吸水量」は「日射量」の推移と明確に連動していることがわかります。この科学的な事実こそが、日射量に応じてかん水量を調整することの妥当性を論理的に裏付けています。


不適切な水管理がもたらす経営的損失の分析


経験や勘に頼った水管理は、知らず知らずのうちに経営的な損失を招いている可能性があります。過剰かん水、かん水不足、そして従来手法の限界という3つの視点から、そのリスクを具体的に見ていきましょう。


過剰かん水のリスク:根傷みと生育不良 高知県農業技術センターの研究によれば、従来の日射比例かん水だけでは、春先(3月頃)から土壌が過湿状態(pF1.0以下)になり得ることが指摘されています。土壌が過湿になると、根が呼吸できなくなり「根傷み」を引き起こします。健全な根がなければ、水分や養分を十分に吸収できず、結果として生育不良や収量低下につながります。


かん水不足のリスク:品質低下と商品価値の喪失 逆に、水が不足すると品質に深刻な影響が出ます。特に問題となるのが、果実の表面が陥没・褐変する「日焼け果」です。岡山県の試験研究成果では、土壌水分が少ない(土壌が乾燥している)ほど日焼け果の発生が多くなることが明確に示されています。日射が強まり、日焼け果が発生しやすくなる3月以降は、土壌pF値を2.0以下に保つ(=乾燥させすぎない)管理が品質維持のために極めて重要です。


従来手法(畝間かん水)の限界:作業性の悪化と減収の悪循環 古くから行われてきた畝間かん水にも課題があります。岡山県の導入事例では、畝間かん水によって「畝間のぬかるみによる作業性の悪化」が指摘されています。ぬかるんだ通路では、防除・整枝・収穫といった重要な作業が遅れがちになります。この作業の遅れが樹勢の低下を招き、さらなる減収につながるという悪循環に陥る危険性があります。


これらの過剰かん水、かん水不足、そして畝間のぬかるみという三重のリスクを根本から断ち切り、収益を最大化するためには、日射量という客観的なデータに基づき、リアルタイムかつ自動でかん水量を最適化する仕組みが不可欠です。次章では、その具体的な解決策である「日射比例かん水」のメリットを詳しく解説します。



2. 「日射比例かん水」とは?収益向上に直結する4大メリットを徹底解剖


「日射比例かん水」とは、ハウスに設置した日射センサーで計測した日射量に応じて、かん水の量や頻度を自動で制御する技術です。天候に合わせて植物が本当に必要とする水分量を供給することで、栽培をより科学的かつ効率的に進化させます。この技術がもたらす経営上のメリットは大きく、以下の4つに大別できます。


メリット1:生育の最適化による収量向上


植物の成長は光合成によって支えられています。日射比例かん水は、光合成が最も活発になる時間帯に水分を過不足なく供給することで、植物のポテンシャルを最大限に引き出します。水分ストレスから解放されたなすは、健全な生育を続け、結果として収穫果数の増加、すなわち収量向上に直結します。 参考として、熊本県農業研究センターの研究では、CO2施用や温度管理といった環境制御技術が生育を促進し、可販果収量を増加させることが示されています。日射比例かん水もまた、生育環境を最適化する重要な要素の一つであり、同様の増収効果が期待できることを示唆しています。

(出典:熊本県農業研究センター「温度管理と炭酸ガス施用が12~2月のナス品種「PC筑陽」および「筑陽」に与える影響」)


メリット2:品質向上とロス削減


特に、土壌の乾燥は「日焼け果」の直接的な原因となることが実証されています。また、水分の過不足は果実の肥大不良(ボケ果)にもつながるため、日射比例かん水は土壌水分を常に適切な範囲に保つことで、これらの不良果の発生を効果的に抑制します。結果として、収穫したなすのうち商品として出荷できる割合(可販果率)が向上し、農業経営における直接的な損失を削減します。


メリット3:劇的な省力化の実現


「毎朝、天気予報とにらめっこして、かん水量を決める」「天候の急変でハウスに駆けつけ、バルブを調整する」といった日々の水管理に、どれだけの時間と労力を費しているでしょうか。日射比例かん水は、こうした手間から生産者を解放します。 その効果は絶大です。農研機構のスマート農業実証プロジェクトでは、AIかん水施肥システム「ゼロアグリ」を導入したなす農家が、かん水に伴う労働時間を年間で196時間も削減したという事例が報告されています。これは1日8時間労働と換算して約25日分に相当します。削減できた貴重な時間を、収穫や整枝といった、より付加価値の高い作業に集中させることが可能になります。

(出典:農研機構 スマート農業実証プロジェクト「ICT技術やAI技術等を活用した日本一園芸産地プロジェクト」)


メリット4:水と肥料のコスト削減


日射比例かん水は、植物が必要とする分だけを供給するため、水資源の無駄遣いを防ぐ環境配慮型の技術でもあります。しかし、経営面で最も注目すべきは、肥料コストの削減効果です。 岡山県での夏秋なす栽培事例では、日射制御型のかん水装置を導入した結果、点滴チューブによる少量多回数のかん水・施肥によって施肥効率が向上し、肥料費が慣行栽培の半分程度にまで低減されたという驚くべき実績が報告されています。肥料価格が高騰する現代において、このコスト削減効果は経営に大きなインパクトを与えます。

(出典:岡山県「岡山県における夏秋なす栽培への日射制御型拍動自動かん水装置の導入と普及活動」)



日射比例かん水は、単に「楽をする」ための技術ではありません。収量・品質の向上という「攻め」と、省力化・コスト削減という「守り」を同時に実現する、まさに「攻めの経営改善技術」なのです。



3. コストを抑えて始める!「GO SWITCH」を活用した日射比例かん水導入3ステップ


「高機能な環境制御システムは、初期投資が高く、導入のハードルが高い」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、近年では既存のハウスに後付け可能で、必要な機能からスモールスタートできる、現実的で低コストな選択肢が登場しています。ここでは、スマートフォンでかん水や窓の開閉などを制御できるシステム「GO SWITCH」を例に、具体的な導入プランを3つのステップで提案します。


ステップ1:最小構成で「かん水の自動化」からスタートする


まず、日射比例かん水を実現するために最低限必要なものから始めましょう。


1. GO SWITCH 本体:スマートフォンからの指示を受け、バルブなどの機器を制御する心臓部です。


2. 連携可能な環境計測装置の日射センサー:株式会社IT工房Z社製の「あぐりログ」など、GO SWITCHと連携できる日射センサーを用意します。


3. 既存のかん水用バルブを電動弁に交換:お使いのバルブに平行になる形で電動弁を取り付ければ準備は完了です。


この最小構成だけで、日射量に応じたかん水の遠隔操作・自動制御が可能になります。スマートフォン一つで、いつでもどこでもハウスの水管理ができるようになり、まずは「かん水の自動化・最適化」という最も効果を実感しやすい部分からスマート農業をスタートできます。


ステップ2:費用対効果を冷静に分析する


導入を検討する上で最も重要なのがコスト分析です。岡山県の夏秋なす栽培事例を参考に、10aあたりの年間コストを比較し、費用対効果を可視化してみましょう。


【前提条件】

• かん水装置の耐用年数を5年とし、減価償却費を年間コストに含めます。

• 岡山県の事例における肥料費と装置コストを参考に算出します。


項目

肥料費

かん水装置コスト(年間)

合計コスト

特記事項(労力など)

慣行栽培(畝間かん水)

184,389円

-

184,389円

毎日の手動かん水作業、畝間のぬかるみによる作業性低下

日射比例かん水導入後

89,311円

37,868円

127,179円

かん水作業の自動化、作業環境の改善


※かん水装置コスト(年間)37,868円の内訳:初期投資(ソーラーパネル、水中ポンプ、制御装置等)の5年償却額 23,868円 + 消耗品(かん水チューブ等)14,000円。岡山県の導入事例を基に算出。


上記のテーブルが示す通り、日射比例かん水は初期投資を含めても、肥料費の大幅な削減(約9.5万円/年)により、年間のランニングコストが慣行栽培よりも約5.7万円も低くなります。これは、装置の導入コストを差し引いても、毎年利益が生まれる計算です。

さらに、豊橋市の「アグリテック導入支援補助金」のように、多くの自治体でスマート農業導入に関する公的支援が用意されています。GO SWITCHもこの補助金の対象となっており、こうした制度を活用すれば、初期投資の負担をさらに軽減することが可能です。


ステップ3:将来の拡張性を見据える


GO SWITCHの大きな利点の一つが、その拡張性です。まずは「かん水の自動化」から始め、効果を実感した上で、将来的には制御対象を増やしていくことができます。


側窓の自動開閉:温度や日射量に応じた換気制御

暖房機の遠隔操作:夜間の冷え込み対策

換気ファンの自動制御:湿度管理の精度向上


このように、かん水の最適化を第一歩として、将来的にはハウス全体の環境をスマートフォンで統合管理する本格的なスマート農業へと、段階的にステップアップしていくことが可能です。


GO SWITCHのようなツールは、大きなリスクを取ることなく、スモールスタートで着実に効果を実感しながら栽培の高度化を図るための、現代の農家にとっての賢い選択肢と言えるでしょう。



4.【応用編】生育調査との連携で、さらに高次元のなす栽培へ


日射比例かん水を導入することは、単なる作業の自動化に留まりません。それを基盤として、作物の状態をデータで「見える化」する「生育調査」と組み合わせることで、栽培管理全体の精度を飛躍的に高めることができます。


高知県の先進的な生産者が取り組んでいるのが、「生育調査」と「バランスシート」の活用です。これは、毎週決まった株の特定の項目を計測し、植物の状態を客観的に評価する手法です。なす栽培では、特に以下の2項目が重要な指標とされています。


花房直下の茎径:樹勢の強弱(植物の体力)を示す指標。

花房直上葉の葉長:栄養生長と生殖生長(葉や茎を伸ばす力と、実をつける力のバランス)を示す指標。


これらのデータを「バランスシート」と呼ばれる十字チャートにプロットすることで、現在の樹の状態を視覚的に把握します。


「日射比例かん水」と「生育調査」を組み合わせる意義

この2つを組み合わせることで、栽培管理に強力なPDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を導入できます。


日射比例かん水(攻めの土台作り):日射量という客観的データに基づき、常に最適な水分環境を「実行(Do)」し、植物の生育ポテンシャルを最大限に引き出す攻めの土台を築きます。

生育調査(守りのフィードバック):週ごとの茎径や葉長の変化を「評価(Check)」することで、植物が現在どのような状態にあるのか、かん水や施肥、温度管理がどう影響したのかを正確にフィードバックします。


例えば、生育調査の結果、樹勢が弱い(茎径が細くなってきた)と判断された場合、「着果負担が大きすぎるのかもしれない」と仮説を立てることができます。その対策として、かん水設定を微調整して根の活力を高めたり、追肥のタイミングや量を見直したり、あるいは収穫サイズを一時的に小さくして着果負担を軽減するなど、データに基づいたより緻密な判断が可能になります。


ツールによる環境の自動制御と、生産者自身の観察眼およびデータ分析を組み合わせること。これこそが、経験や勘を「匠の技」へと昇華させ、天候に左右されない安定した多収栽培を実現する、次世代の農業の姿です。



5. まとめ


本稿では、なすの促成栽培における収益向上のための新たな常識として「日射比例かん水」を解説しました。

この記事の要点を改めて整理します。


• 日射比例かん水は、植物生理に基づいた科学的な水管理手法であり、収量・品質の向上、劇的な省力化、そして水・肥料コストの削減に大きく貢献します。


• 不適切な水管理は、根傷みによる生育不良や、日焼け果の発生による品質低下といった直接的な経営損失につながるリスクをはらんでいます。


• 「GO SWITCH」のような現代的なスマート農業ツールを活用することで、高額な初期投資を必要とせず、費用対効果の高い形でスモールスタートを切ることが可能です。


• さらに、生育調査と組み合わせることで、データに基づいたPDCAサイクルを回し、栽培技術そのものを高次元へと引き上げることができます。


これからの農業は、天候任せ・経験頼りの農業から、データに基づき積極的に収益を最大化する農業へとシフトしていきます。日射比例かん水は、その変革を実現するための、確実で力強い第一歩となるでしょう。






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