「農家はもっと減っていい」は本当か? 生き残った大規模農家を待ち受ける『資材高騰』という名のしっぺ返し
- Mitsuyoshi Oki
- 3 日前
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更新日:1 日前
1. 導入:現場でよく聞く「農家淘汰論」
酒の席や部会で、意識の高い生産者からよく出る言葉。「やる気のない農家や、小規模な兼業農家はもっと減ればいい。そうすれば農地が集約され、プロだけが残って効率化できる」。
なるほど...確かに一理あります。日本の農業は細分化されすぎており、大規模化によるコストダウン(スケールメリット)が必要なのは事実ですよね。

しかし、この議論には重大な「経済的な死角」があると私は考えます。ライバルが減って「やった、農地が増えた」と喜んでいる間に、あなたの足元の「市場」が崩れ去ろうとしていることにお気づきでしょうか?
【実例】日本の自動車市場を見てください。「欲しい車」が消えていませんか?
農業の話をする前に、皆さんの身近にある「クルマ」の話をしましょう。 昔に比べて、「日本の道路事情に合った、手頃で良い車」が減ったと感じませんか?
1. ホンダ「シビック」やトヨタ「カローラ」が巨大化した理由
例えば、ホンダの「シビック」やトヨタの「カローラ」。 昔は日本の狭い道でもスイスイ走れる「5ナンバー(小型乗用車)」サイズが当たり前でした。しかし今の新型モデルを見てください。ほとんどが車幅1.8メートルを超える「3ナンバー」になり、ボディも巨大化しています。 日本の古い立体駐車場には入らないサイズです。
なぜこうなったのでしょうか? メーカーが意地悪をしているわけではありません。 「日本市場が縮小して、儲からなくなったから」です。
メーカーは今、人口が増え続ける北米や中国市場を見て車を作っています。 向こうでは「大きい車」が好まれます。 「縮小する日本のためだけに、専用の小さい車を開発する予算はない。世界標準(グローバルモデル)を日本でも売ろう」 これが、今の自動車業界で起きていることです。
2. 「選択肢」が奪われる恐怖
メーカーが日本市場よりも北米や中国市場を重視した結果、何が起きたでしょうか?
ラインナップの減少: 日本だけで人気のあったセダンや、実用的な商用バンが次々と生産終了になりました。(日産などは結構ラインナップが減りましたよね)
価格の高騰: 世界水準の装備がついた結果、軽自動車でも200万円を超えるのが当たり前になりました。
ミスマッチ: 日本の狭い農道や路地裏には大きすぎる車ばかりになり、選択肢が激減しました。
3. 明日の農業資材も同じ運命にある
これを農業に置き換えてみてください。 「農家が減っていい」と言い続け、日本の農業市場が極端に縮小したらどうなるでしょうか?
トラクター: 日本の狭い棚田やハウスに合わせた「小回りモデル」が生産終了し、北米仕様の巨大なトラクターしか買えなくなるかもしれません。
農薬・肥料: 日本特有の高温多湿や土壌に合わせたきめ細やかな製品がなくなり、世界標準の「大味な薬剤」を高値で使うしかなくなるかもしれません。
ハウス資材: 日本の台風に耐える強靭なパイプが特注扱いになり、コストが倍になるかもしれません。
「市場規模が小さくなる」とは、「専用品を作ってもらえなくなる」ということです。 「俺は大規模農家だから大丈夫」と思っていても、買う道具そのものが「日本の現場に合わない・高いもの」になってしまえば、経営は成り立ちません。
だからこそ、私たちは「農家の数(=市場の購買力)」を一定数維持し、「日本市場を無視できない規模」にしておく必要があるのです。
2. 視点①:資材メーカーは「ボランティア」ではない(市場縮小のリスク)
あなたが毎日使う肥料、農薬、ビニール、パイプ。これらが安く買えるのは、なぜでしょうか? それは、日本全国に「大量の購入者(生産者)」がいるからです。
薄利多売の崩壊:
資材メーカーやホームセンターは、「数が出る」から安く作れ、安く運べます。
もし農家の数が半分になったら? メーカーは生産ラインを維持できず、単価を上げるか、撤退するしかありません。
「特注品」化する農業資材:
今までホームセンターで数百円で買えていたバルブや継手が、棚から消え、すべて「取り寄せ・高額なプロ用」に変わるかもしれません。
「ライバルが減る」ということは、「共同購入の仲間が減る」ということと同義なのです。
3. 視点②:イノベーションが起きなくなる(技術停滞のリスク)
私たちのような農業ベンチャー(GREEN OFFSHORE)の視点から言わせてください。
「市場規模」が小さい業界には、新しい技術は入ってきません。
開発投資の論理:
「10万人が使う市場」と「1,000人しかいない市場」。企業が開発費を投じるのは前者です。
農家が減りすぎると、便利なロボットも、新しいAIアプリも、「作っても元が取れない」ため開発されなくなります。
結果:
残った大規模農家は、古くて高い技術を使い続けることを余儀なくされます。これは国際競争力において致命的です。
4. 視点③:「産業インフラ」としての脆弱性(調達・メンテナンス難)
農家が減れば、それを支える「地域のインフラ」も撤退します。
具体例:
近所の農機具屋さんが廃業し、修理に隣町まで行かなければならなくなる(ダウンタイムの増加)。
運送業者が「集荷ルート」を廃止し、個別に持ち込まなければならなくなる(物流コストの増大)。
結論:
いくらあなたの農園が大規模化しても、「地域全体」が過疎化すれば、経営コストはむしろ跳ね上がります。 これが「限界集落」の経済原理です。
5. まとめ:必要なのは「淘汰」ではなく「連携」による市場維持
もちろん、無理やり赤字農家を延命させる必要はありません。時代の流れで農家数は減るでしょう。
しかし、「減ればいい」と歓迎するのは危険です。「減ることで発生するコスト増」を覚悟しなければなりません。
ではどうすれば良いのでしょうか? 生き残るための戦略として、私たちには「少ない人数でも、市場規模(購買力・生産額)を維持する技術」が必要になるのです。
それは、例に挙げるなら「1人で10人分を管理する」仕組みづくりであり、「自動化(GO SWITCH)」であり、地域を超えてデータを共有する「スマート化」なのです。
「農家の数は減っても、農業という『市場』は守る」。 この視点がないと、最後に生き残ったプロ農家さえも、資材高騰の波に飲み込まれてしまうでしょう。
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