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【米国事例レポート】衛星画像とAI解析による精密施肥(Variable Rate Nitrogen Application)

今回はいつもとは少し違った所から、アメリカを中心とした穀物生産において、衛星画像(リモートセンシング)とAI解析を用いた可変施肥(Variable Rate Technology: VRT)が、どのようにコスト削減と環境負荷低減を実現しているか、具体的なソースと数値を交えて解説してみます。


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1. 概要:技術の仕組み


この技術は、広大な農地を「均一な一枚の畑」としてではなく、「生育状態が異なる小さな区画の集合体」として扱います。


  • Step 1: 衛星モニタリング

    • LandsatやSentinel-2などの衛星、あるいは民間衛星(Planet等)から取得した画像を使用し、NDVI(正規化植生指数)などの指標を用いて、作物の「バイオマス量」や「葉緑素含有量(窒素レベル)」をマップ化します。

  • Step 2: AI解析と処方箋作成

    • AI(機械学習モデル)が、衛星データに加え、土壌マップ、過去の収量データ、気象データなどを統合解析。エリアごとの「最適窒素要求量」を算出し、施肥マップ(Prescription Map)を自動生成します。

  • Step 3: 可変施肥(VRT)

    • トラクターやスプレーヤーに施肥マップを転送し、GPSと連動して、走行しながら肥料の散布量を自動で増減させます。



NDVI(正規化植生指数)とは?

〜衛星が宇宙から「植物の健康状態」を診る仕組み〜

衛星データ活用において、最も基本的かつ重要な指標の一つがNDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指数)です。 一言で言えば、「植物がどれくらい元気に育っているか(活性度)」や「植物の量(密度)」を数値化したものです。

1. なぜ衛星から「植物の元気さ」がわかるの?


私たち人間の目は、植物を見ると「緑色」だと感じます。しかし、植物は人間には見えない「近赤外線(きんせきがいせん)」という光を、猛烈な強さで反射しています。

NDVIは、この「目に見えない光の反射」を利用しています。


  • 赤色の光(Red): 植物は光合成をするために、赤色の光を吸収します(だから反射せずに黒っぽく見える)。

  • 近赤外線(NIR): 植物は熱を持って乾いてしまわないよう、近赤外線を強く反射します。


つまり、衛星から見て「赤色の光は吸収されている(暗い)けれど、近赤外線はすごく跳ね返ってきている(明るい)」場所があれば、そこには「光合成を活発に行っている元気な植物がある」と判断できるのです。



2. 数値の見方(-1.0 〜 +1.0)


NDVIは計算によって -1.0 から +1.0 までの数値で表されます。数値が高いほど、植物が青々と茂っていることを意味します。

  • 0.6 〜 1.0(高い): 森林、最盛期の農作物。植物が非常に密に茂っており、健康状態が良い。

  • 0.2 〜 0.5(中くらい): 芝生、低木、収穫前の作物、あるいは生育初期の作物。

  • 0.0 〜 0.1(低い): 土、砂、コンクリート、岩。植物がほとんどない状態。

  • マイナス値: 水(海、川、湖)、雲、雪。



3. 農業での活用方法


このNDVIを時系列(時間の経過)で分析することで、農業現場では様々なことが分かります。


  • 生育状況のモニタリング: 「今年の畑は去年に比べてNDVIの上昇が早い」=「生育が順調だ」といった判断ができます。

  • 収穫適期の予測: NDVIがピークを迎えて下がり始めたタイミングを捉えることで、最適な収穫時期を予測します。

  • 異常検知: 畑の中で一部だけNDVIが低い場所があれば、そこだけ「病気が発生している」あるいは「水不足になっている」可能性があります。

  • 耕作放棄地の発見: 夏になってもNDVIが上がらない(ずっと土のまま)、あるいは逆に管理されずに雑草が生い茂って不自然なNDVIを示す場所を特定します。



2. 具体的な導入事例とサービス


事例①:The Climate Corporation (Climate FieldView™)


バイエル傘下の大手デジタル農業プラットフォーム。全米で最も広く利用されています。


  • 実施内容: イリノイ州やアイオワ州などのコーンベルト地帯で、過去の収量データと衛星画像を組み合わせた「窒素管理ツール」を提供。生育が良い場所(さらに伸びしろがある場所)には追肥を増やし、生育が悪い(土壌条件などで制限されている)場所には減らす等の制御を行います。

  • 効果(ソースに基づく):

    • 肥料効率の向上: 従来の均一散布と比較して、窒素使用効率(NUE)が平均25%向上した事例が報告されています。

    • コスト削減と収益: 窒素肥料の総量を削減しつつ収量を維持・増加させることで、1エーカーあたり$25以上の利益改善が見込めるとの研究結果があります。

  • [Source]: NutrientStar "What is the Climate FieldView™ Nitrogen Management Tool?" / Frontiers in Sustainable Food Systems (2020)



事例②:Farmers Edge (FarmCommand®)


カナダ発で北米全域に展開する、高頻度衛星画像を活用したサービス。


  • 実施内容: Planet社の毎日撮影される高頻度衛星画像を活用し、雲の影響を受けにくい詳細なNDVIマップを提供。これにより、急速に成長するコーンの窒素要求タイミングを逃さずに可変施肥を行います。

  • 効果:

    • 収量増加: 独立した調査において、冬穀物で3〜8%の収量増加が確認されています。

    • コスト削減: 生育不良エリアへの無駄な肥料投入をカットすることで、肥料コストを10%〜15%削減

  • [Source]: Farmers Weekly "Accurate satellite images improve nitrogen efficiency" / Farmers Edge Case Studies



3. 数値で見る導入効果(メタ分析と研究結果)


複数の研究結果から導き出される、一般的な導入効果は以下の通りです。

項目

効果の数値

詳細・根拠

肥料コスト削減

10% 〜 15%

生育不良エリアや、すでに窒素が足りているエリアへの過剰投入を抑制することによる直接的な削減効果。ミズーリ州での実験では、収量を落とさず総窒素使用量を11%削減しました。(Source: ResearchGate, 2016)

収量増加

3% 〜 8%

窒素不足が起きている高ポテンシャルエリアに重点的に追肥することで、収穫量が増加。スイスの研究では、可変施肥により純利益が増加することが示されています。(Source: ETH Zurich)

環境負荷低減

N流出の大幅減

必要な分だけ施肥するため、地下水への硝酸性窒素の流出や、温室効果ガス(N2O)の排出を抑制。ある研究では、窒素溶脱を16%削減、N2O排出を10%削減したと推計されています。(Source: ResearchGate, 2016)



4. 日本の農業への示唆(ストーリーへの活用)


この米国の事例は、単なる「大規模農業の話」ではなく、「データの力で、ムダを利益に変えた話」として日本の文脈に置き換えることができます。


  • 「経験と勘」のデジタル化: 米国の広大な畑でも、かつては「一律散布」というドンブリ勘定でした。それを衛星データで「見える化」し、細かく管理することで利益を出しました。

  • 日本におけるGO SWITCHの役割: 日本のハウス栽培における「水やり」も、現状は「一律管理」のドンブリ勘定な所が多いです。GO SWITCHで「必要な時に、必要な量だけ(可変潅水)」を行うことは、米国の可変施肥と同じロジックで、コスト削減と収量アップを同時に実現するものです。




[参考文献・ソースリスト]


  1. Frontiers in Sustainable Food Systems (2020): "Potential Farm-Level Economic Impact of Incorporating Environmental Costs Into Nitrogen Decision Making"

  2. ResearchGate (2016): "A Case Study of Environmental Benefits of Sensor-Based Nitrogen Application in Corn"

  3. NutrientStar: "Climate FieldView™ Nitrogen Management Tool Review"

  4. Farmers Weekly: "Accurate satellite images improve nitrogen efficiency"



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