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あぐりログ時代に「データ共有機能」を作った私がいま、あえて「オープンな環境制御プラットフォーム」へ辿りついた理由

3 時間前
読了時間: 6分

農業業界で「環境データの見える化(モニタリング)」がまだ珍しかった頃、私は「あぐりログ」の開発に携わっていました。



当時、私が提案して実装した機能のひとつに「データ共有(フォロー・フォロワー機能)」があります。


当時の農業ITといえば、自分のハウスの温度や湿度を個人がスマホでチラッと確認するだけの「孤立したツール」が当たり前でした。しかし、これからは「農家さん同士が互いのハウスデータをフォローし合い、ナレッジを共有する世界が絶対に必要になる」と確信していたからです。



「対個人」の葛藤と、「認可制」という解決策


ただ、現場にデータ共有を持ち込んだ当初は、農家さんの間でも激しい葛藤がありました。

農家さんにとって、日々の温度管理や窓の開け方は長年の試行錯誤で辿り着いた「秘伝の技(飯のタネ)」です。「近所のライバルに自分の秘伝を勝手に見られたくない」という対・個人の抵抗感があるのは、プロとして至極当然の心理でした。


そこで私は、ただデータをオープンにするのではなく、「フォローを許可した相手だけに閲覧を認める『認可制(アクセス制御)』」という仕様を採用しました。


「誰にでも見られるわけではなく、自分が信頼できる仲間や部会のメンバーだけに限定して共有できる」


この心理的安全性を担保する設計をお伝えしたことで、不安を抱いていた農家さんたちにも「それなら安心だ」と心から納得していただくことができました。



「対他産地」という先進的な視点へ


この認可制によって安心感が生まれたことで、先進的な産地のリーダーたちを中心に、さらに視野の広い議論が巻き起こりました。


「個人の秘伝を囲い込んでいる場合じゃない。信頼できる仲間同士でデータを共有し、部会や地域全体で高め合わなければ、他の巨大産地との競争に勝てなくなる」


「対・個人」の警戒から、「対・他産地(地域の生存戦略)」へ。 視点を広げた先鋭的な農家さんたちによって、データ共有の輪は一気に広がっていきました。

全国各地で自発的にあぐりログの画面を持ち寄り、「この時期の夜温はどう下げてる?」「この日射のときの窓の開け方は?」とデータを突き合わせる自主的な勉強会が開かれ、地域全体の栽培レベルが底上げされていく光景を目にしたとき、エンジニアとして震えるほどの感動を覚えました。



農業界全体に広がる「オープン化」の巨大な潮流


そして現在、視点を広げて見渡してみると、農業を取り巻く環境は大きく変わりました。

WAGRI(農業データ連携基盤)の広がりや、大手農機メーカーによるオープンAPI化の動きに代表されるように、農業界全体が自社による囲い込みを脱し、「データをオープンに繋いで互いの価値を高め合う」という歴史的な潮流の中にあります。


他社サービスやモニタリングプラットフォームにおいても、ユーザー同士のデータ共有やグループ機能が当たり前に搭載される時代になりました。


10年前に私たちが蒔いた「データ共有」という考え方が、いまや業界全体の共通言語(当たり前の文化)になったことは、本当に素晴らしいことだと感じています。


そして現在、あぐりログをはじめとするツールの普及によってハウス内の環境が見える化されたことで、私たちは次のステージとなる「2つの課題」に向き合うことになりました。


  1. 【心理の壁】 認可制にしたとはいえ、自分のノウハウを共有すること自体に、少なからず心理的負担が残ること。

  2. 【物理の壁】 上手い人の管理数値を教えてもらっても、ハウスの構造や日射の温まりやすさが違えば、同じように窓を開けても温度が暴れて真似できないこと。


そして何より、どれだけデータが見えても、「春先に激変する環境の中、結局は人間が1日に何度もハウスへ走って窓を手動で開け閉めしている」という根本的な労働の苦しみは変わっていませんでした。



「秘伝の公開」から「オープンなシステム相互連携」へ


「見るだけの共有」には限界がある。データが見えたその先で、あらゆるメーカーの設備が柔軟に繋がり、自動で窓の開閉までを最適化する『オープンな環境制御プラットフォーム』を作らなければ、本当の意味で現場を救うことにはならない――。

これが、私が辿り着いた次の挑戦、「HouseKeeper」です。


過去の経験を経て、私の思考はアップデートされました。


  • モニタリングのフェーズ(あぐりログで切り拓いた「人」の連携): 農家と農家が繋がり、環境データを共有し合って互いの栽培技術を高め合った。

  • 環境制御のフェーズ(HouseKeeperによる「システム」のオープン連携): あぐりログ等で計測された確かな環境データをトリガーに、現場の多様な制御盤や窓開閉モーターがメーカーの垣根を越えて自律的に連動する。


自分の秘伝の技を誰かに公開する必要なんてありません。 レトロフィット(後付け)の仕組みによって、これまでの制御盤よりも細やかに環境を整え、日々の温度管理を力強くサポートしてくれます。


高価な新型制御盤を一式買い直してもらうのではなく、すでに現場にある設備をそのまま活かし、「メーカーフリーな共通プラグインとして、環境制御をより扱いやすくアップデートする」というアプローチです。


実はこれまで、国の大型研究開発事業やスマート農業の施策において、こうした「既存設備を後付けでうまく活かす(レトロフィット)」という文脈の取り組みは、ほとんど相手にされてきませんでした。並ぶのは数千万円から数億円をかけた最新設備の導入や、巨大な次世代ハウスの新設といった、一部の大規模農家しか手の届かない理想論ばかりだったからです。

しかし今回、生研支援センター(BRAIN)の国家プロジェクトにおいて、私たちの「既存制御盤へのレトロフィットによる環境制御」という課題が採択されました。

この採択は、国や時代の潮目が「高額な設備への総入れ替え」から、「今現場にある資産をハックし、低コストにアップデートする現実解」へと明確に変わり始めたことの証明だと確信しています。



過去の試行錯誤は、すべて制御に繋がりつつある


振り返ってみると、あぐりログ時代に試行錯誤したこと、現場の農家さんの葛藤や情熱に触れたこと、そして全国の試験場の方々と出会えたこと……そのすべてが、今回の「HouseKeeper」というプラットフォームを誕生させるための必要な伏線だったのだと感じます。

農機や広域データがオープンに繋がり始めたように、ハウスの設備やデータも自社だけで抱え込んで囲い込む時代は、もう終わります。


あぐりログの開発を通じて「データ共有」という種を蒔き、現場の生産者の皆様と泥臭く向き合ってきたあの日があるからこそ、そのデータを最大限に活かす「次の手足」を作ることができました。

今度は「メーカーの垣根を越えて、全国の設備と環境制御ロジックをオープンに繋ぐプラットフォーム」として、日本の施設園芸の生産性を根本から変えていきます。


新しいオープン環境制御プラットフォーム「HouseKeeper」。 いよいよ本格的に動き始めます。今後の展開に、ぜひご期待ください。




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