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プロ農家は知っている、ナスの常識を覆す5つの真実

普段、何気なく食卓にのぼるナス。夏野菜の代表格として、煮ても焼いても揚げても美味しく、多くの家庭で親しまれています。しかし、その一本一本が私たちの手元に届くまでには、驚くべき科学と緻密な技術が隠されています。


特に、生産量日本一を誇る高知県や、それに次ぐ熊本県といったトップ産地は、単に栽培面積が広いだけではありません。彼らがトップランナーである理由は、まさにこれから紹介するような、データに基づいた科学的な栽培手法をいち早く導入し、ナスのポテンシャルを最大限に引き出しているからです。これは、もはや農業における静かな革命と言えるでしょう。


この記事では、現代農業の最前線から、プロの農家だけが知るナスの常識を覆す5つの真実を解き明かします。読み終える頃には、この身近な野菜を見る目がきっと変わっているはずです。


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1. 「水やり」より「湿度」が重要だった


植物の生育に水が不可欠なのは言うまでもありません。しかし、ナス栽培のプロは「土への水やり」と同じくらい、あるいはそれ以上に「空気の湿度」を重視します。これは、ナスが空気中の湿度に極めて敏感な作物であり、たとえ光や温度が完璧な状態であっても、湿度が低いだけで光合成の効率が著しく低下してしまうという、驚くべき性質を持つからです。


専門家の間では、日中の湿度は75~80%(5~8g/㎥)の範囲に維持することが推奨されています。空気が「渇きすぎている」と、植物は葉から過剰に水分を奪われ、成長にブレーキがかかってしまうのです。この理想的な環境を作るために、トップ農家が用いるのは意外にもローテクな方法です。それは、ハウスの通路に稲わら麦わらを敷き詰めること。わらは、湿度が高いときには余分な水分を吸収し、空気が乾燥すると水分を放出して、天然の湿度調整材として機能します。


さらにこの方法には、病害を防ぐという副次的な効果もあります。10aあたり300kgの稲わらを敷くことで、夜間の湿度を6%下げるという事例もあった事から、灰色かび病などの発生を抑制するのに役立つことが分かっています。


2. ナスの「日焼け」は、水不足が原因だった


これまで、ナスの収量に土壌の水分量はそれほど大きな影響を与えない、というのが通説でした。しかし、品質を大きく左右し、商品価値を失わせてしまう「日焼け果」の問題は、この常識に真っ向から異を唱えます。日焼け果は、強い日差しだけで起きると思われがちですが、実はその根本的な原因は土壌の水不足にあることが科学的に明らかになっています。

研究によると、日焼け果の発生は土壌水分が少ないほど多くなることが確認されています。これを防ぐためには、灌水(水やり)を開始するタイミングをpF2.0以下に保つこと、つまり、植物が水を吸うのに苦労し始める状態(pF値が2.0以上)になる前に灌水することが非常に重要です。


具体的に必要な水の量を見てみましょう。例えば5月のような日差しが強くなる時期には、晴れの日も雨の日も含めて、1日あたり平均で1㎡あたり5~6リットルもの水が必要です。さらに、曇りや雨の日でも1㎡あたり2~3リットルの灌水を行うことで、その後の晴天日に植物がスムーズに光合成を再開できるよう備えることができます。これは、土壌の水分確保が単なる基本要件ではなく、高品質な果実を安定して生産するための積極的な戦略であることを示しており、古い常識を覆す重要な発見です。



3. 現代のナス栽培は「データ」で植物と対話する


高い収量を安定して実現する現代のナス栽培は、経験や勘だけに頼るものではありません。それは、植物の状態を数値化し、データに基づいて管理する、まさに「デジタル農家」による科学的な営みなのです。この進化は、植物を「観察」することから始まり、物理的な作業を「自動化」し、最後には植物が呼吸する「大気そのものを制御」する、という段階を経て実現されています。


第一段階:植物の状態を「見る」

トマト栽培で培われた手法を応用し、高知県などの先進的な農家は「バランスシート」と呼ばれるグラフを使って、週ごとにナスの健康状態を可視化します。具体的には、以下の2つの指標を毎週計測します。


 • 樹勢(Vigor): 花房の真下にある茎の直径(茎径)で測定。

 • 生長バランス(Growth Balance): 花房のすぐ上にある葉の長さ(葉長)で測定。


これらのデータをグラフにプロットすることで、農家は植物がエネルギーを葉や茎を大きくすること(栄養生長)と、花や実をつけること(生殖生長)のどちらに重点を置いているかを客観的に把握し、具体的な対策を立てることができるのです。


第二段階:物理的な作業を「自動化する」

さらに、AI(人工知能)を搭載した自動灌水・施肥システムのような技術が、農家の負担を劇的に軽減します。熊本県で行われた実証プロジェクトでは、このシステムを導入したことで収量が20%増加し、年間の灌水に伴う労働時間を196時間も削減できたという驚くべき結果が出ています。


第三段階:大気を「制御する」

冬場、ハウスを閉め切ると、植物の光合成によって日中のCO2濃度が外気よりも低下し、成長の足かせとなります。これを補うため、プロ農家はCO2発生装置を使い、濃度を500~600ppmに高めて光合成を最大限に促進します。しかし、ここにも深い科学が隠されています。単にCO2を施用するだけでは十分ではありません。例えば、品種「千両」では、CO2を施用しても温度管理が慣行のままだと、果実が硬くなる「石ナス」が多発し、かえって可販果収量が減少してしまいます。しかし、換気温度を31℃、暖房温度を15℃といった高温管理と組み合わせることで、この問題は解消され、「千両」や「とげなし輝楽」といった品種で可販果収量が大幅に増加することが報告されています。これは、環境要素が複雑に絡み合う中で、データに基づいた精密な制御こそが収量最大化の鍵であることを示す典型例です。


4. 収量を増やすには、あえて不要な枝を「間引く」


「枝が多ければ多いほど、たくさんの実がなる」というのは、実は大きな間違いです。促成栽培(ハウスでの冬春どり栽培)において、収穫のほとんどは主枝から伸びる側枝(わき芽)から得られます。しかし、すべての側枝が効率よく実をつけているわけではありません。


調査によると、特に株の下の方にある側枝は、光が当たりにくく十分に光合成ができないため、「稼げていない」状態にあります。それどころか、不要な枝が多すぎると、枝同士が養分を奪い合って「共倒れ」になり、株全体が弱ってしまうのです。

そのため、プロはあえて下部の不要な側枝を剪定(間引き)します。特に、主枝を垂直に誘引する「垂直仕立て」ではこの作業が不可欠です。一般的な「V字仕立て」の場合でも、一本の主枝につける側枝の数は9個程度に抑えるのが良いとされています。一見、非情にも思えるこの作業が、結果的に収量を増やし、風通しを良くして病害虫を防ぎ、収穫作業の効率を上げるのです。



5. 高知のナスは「血圧を下げる」機能性表示食品だった


最後に、最も驚くべき事実かもしれません。JAグループ高知が生産する「高知なす」は、日本の生鮮ナスとして初めて「機能性表示食品」として登録されています。

その機能性の秘密は、「なす由来コリンエステル」という成分にあります。この成分には、血圧が高めの方の拡張期血圧(下の血圧)を改善する機能があることが報告されているのです。

この「機能性表示食品」というステータスは、自然の偶然ではありません。それは、生産量日本一を誇る高知県が、品質と付加価値をとことん追求してきた、 meticulousな栽培管理技術の直接的な成果です。害虫の天敵となる昆虫を利用して農薬の使用を減らす「エコシステム栽培」のような先進的な取り組みが、安全でおいしいだけでなく、人の健康にも寄与する特別なナスを生み出しているのです。



おわりに


スーパーに並ぶ一本のナス。その背景には、私たちが想像する以上に洗練された世界が広がっています。それは、植物生理学の深い理解、日々のデータ分析、そして革新的なテクノロジーが融合した、まさに現代科学の結晶です。

次にナス料理を味わうとき、その成長を支えた驚くべき科学の物語に、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。



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