野菜の流通事情、直販など、色々な角度で農産物について調べていくと、いつも「2024年問題」が目に入ってきます。
もしかすると、「おいしい野菜をつくる」以前に、野菜を消費者へ届ける流通販路こそ崖っぷちなのではないかと感じるほど。
働き方改革の一貫で、労働基準法が改正されたのが2019年。この中に、物流業界の慣習をくつがえす内容が定められています。2024年4月1日から、自動車運転業務におけるドライバーの時間外労働は年間960時間、月換算で80時間が上限に。
この改正で、最も影響を受けるのが農水産物だと言われています。
(日本農業新聞/2022年11月15日「2024年の物流問題 農水産物が影響最多に 輸送能力3割不足 有識者会合」)
今、現在行われている農水産物輸送ドライバーの拘束時間は全業種内で最長。改正労働基準法で定められる、年間拘束時間の上限3300時間を超えている場合が過半数という。
予測では農水産物の輸送力が30%ダウン?
じゃ、じゃあもうスーパーに北海道産のじゃがいもは並ばなくなるの?
今進んでいる取り組みについて
(全国農業協同組合連合会/青果物物流の合理化に向けた本会の取組み/令和4年11月)
そこで、JAなどが行っている改善策は、農林水産省が提唱しているものと内容が似ています。
どうやって最大商圏の関東まで、ドライバーの労働時間を厳守しながら運ぶかが重要。
①長距離輸送の際、ドライバーの休憩時間を増やす。
→現在、遠隔地から東京卸売市場へ荷物を持って行くスケジュールが鬼のようです。荷下ろしもありますし(そして荷下ろしはドライバーの仕事ではないのに、やってしまっている現状も)。
②とりあえず現状は個別小ロットが多いので、できるだけまとめる。なんなら鉄道なども使う。
→今は生産地から同じ市場を目指すのに、個別で手配したトラックが各自で運んでいるそうです。
③農産物の荷積を、手積みから循環パレットに変える。
→現状は手作業でベタ積みが基本のようで、かなり時間と労力のロスが生まれている模様。
まずは感謝を。そしてこれからの姿勢について
スーパーマーケットを訪れるたび、新鮮な野菜が並んでいるその背景に、想像を絶する労働があることに感謝せずにはいられません。
江戸時代、日本で活躍した飛脚は京都と江戸間を3〜4日で移動したといいます。一人で運ぶのではなく、人馬がリレー形式で運んだのです。しかしその傍らで、宿場町を通ると税金と輸送費がかさむので、宿場町をすっ飛ばす街道が発展していました。例えば三河湾から信州までを結ぶ「中馬街道(ちゅうまかいどう)」。中馬は信州で生まれた荷運びの組合で、馬の背中に荷物を乗せて移動したそう。主に「塩の道」として、海で作られた塩を山間部へ届ける役割を持ち、道沿いの町は宿場町として栄えたといいます。
「塩の道」として知られる街道は各地にあり、新潟県糸魚川から長野の松本までの「千国街道(ちくにかいどう)」や、「秋葉街道(あきはかいどう)」の一部、遠州から信州の塩尻を結ぶルートもそう呼ばれています。
これらの街道を使えば、税金がかからず、一人で長距離を移動できるため、輸送コストが安くなるのです。
今のトラック流通は「現代の中馬街道」とも言うべき状態なのかもしれません。個別に最初から最後まで運ぶ方が安いから、というのが、この流通状態が変わらず続いてきた理由なのではないでしょうか。
農産物の流通が個々の努力に委ねられ、システムとして合理化されないままだったのも「そのままの方がコストが一番抑えられた」からなのではないかと。
長時間人を拘束し、利便性を追求する時代は終わろうとしているようです。何もしなければ農産物の流通量は激減することが分かっているからこそ、今、まさに変革が始まっているのだと感じます。