カーボンクレジットという言葉、ここ数年よく耳にしますよね。
2020年、当時の菅総理が「2050年までにカーボンニュートラルを達成します」と宣言しました。カーボンニュートラルというのが、企業が排出する温室効果ガス=二酸化炭素を、実質ゼロにするというもの。
でも、出ますよね。二酸化炭素。動いて、働いて、企業活動して、なんやかんやしてるとCO2を出してしまう。
だから、「出しちゃった分は、CO2を削減した人たちが努力して得た『削減量』から買って相殺しよう」というのがカーボンオフセットという考え方。
頑張ってる人たちが、「木を植えました!」とか「太陽光発電を駆使して、二酸化炭素を出さずに発電しました!」みたいな活動を経て、本来なら排出するはずだったCO2を出さなかった。それをきちんとした機関を通して、測定、監査、認証してもらえると「CO2を排出する権利=クレジット」として認めてもらえます。
これが、カーボンクレジットです。
カーボンを出しすぎたら、カーボンクレジットを買って相殺する。そういうことです。
逆に言えば、クレジットを発行できるほど頑張れば、それが収入になるということ。
農業活動からカーボンクレジットが生まれるのかどうか
そこで、「農業をやっていれば、クレジットを出せそうじゃないか」と思うわけです。短絡的。農作物を育てると二酸化炭素を吸収しそうですよね?
まずは現状を把握してみましょう。
①そもそも農業はカーボンをかなり出している
上記の資料を拝見すると、世界の温室効果ガス排出の23%は農業・林業・その他土地利用由来であるとわかります。ほぼ1/4ですからかなりの量です。でも排出しているということは、「排出量を減らせば、それがカーボンクレジットになる」ということでもあるわけで。
ちなみに、日本における農業由来の温室効果ガスは、主に以下のものが由来しているそう。
1位は燃料燃焼(CO2)。2位は稲作(メタン)、3位は家畜のゲップ(メタン)。
日本国内のカーボンクレジット制度「Jークレジット制度」において、これまでクレジット創出認証を受けたものは数多くありますが、農業由来のものは大体が、「ハウスのボイラーを重油から電気に換えた」などの燃料燃焼によるものです。
(Jークレジット制度認証一覧)
全体的なプロジェクト数に対して、農業案件は多くない印象ですので、今後拡大されていくのでしょうか。
さらに、1位のメタンが想像以上に数値が大きく、温室効果の影響力が高いのです。メタンはCO2の25倍もの温室効果を持つそう。しかも、稲作でメタン?
稲がガスを出すのではなく、水を張った水田中に生息する嫌気性細菌がメタンを排出するらしく。CO2に比べて、これまであまり脚光を浴びてこなかったのですが、ここにきて問題視されています。
日本人の主食であるコメを育てれば育てるほど、温暖化してしまう。
そこで日本は「稲作の途中で一度水を抜く『中干し』で菌を減らす」と提案しているそうですが、そんな面倒なこと誰がやる?というのが実態のよう。
②土がCO2を吸収するチカラ
もう一つ、「そもそも農業を通してCO2を吸収できる」部分に着目しましょう。
実は土壌に含まれる二酸化炭素は、大気中の約2倍。植物が光合成によって取り込んだ二酸化炭素の一部は、呼吸によって排出されずに植物内に留まります。植物が枯れて土壌で分解された後、さらにその二酸化炭素の一部分が土壌有機物になって、土の中にある程度残るという仕組み。
この土壌中の二酸化炭素貯留を高める方法がいくつか考案されています。
一つ目がカバークロップ。水田の裏作のレンゲ栽培のような感じで、「それ自体は収穫しないけれど、農地を休ませる間に土壌を保護したり、有機物を供給する」目的で植えるもの。
もう一つが不耕起栽培やストリップ耕起のように、土を耕す回数を減らすこと。耕さなければ土壌有機物を土に留めておくことができるからです。
全体的に、今後に期待という印象
これらカーボンクレジットについて、欧米では政府主導ではなく、民間主導のボランタリークレジットが活発化しています。また、アメリカのカーボンクレジット市場ですが、二酸化炭素1トン当たり15ドルと、決して割がいいわけでもありません。
農業からカーボンクレジットを生み出す点も、カーボンクレジットで収益化の部分も、まだまだこれからに期待という印象。パリ協定で決定された、2030年までに削減するべき二酸化炭素量が決まっているので、それまでにクレジットの需要が高まりそうとの見方もありますが。
まずは、田んぼのクローバーを「この子たち、いい働きしてるな」と見直すところから始めようと思います(Twitterで「せっかくレンゲを植えたのに、幼稚園バスが無許可でやってきて荒らして帰っていた」という悲しいツイートを見たばかりです)。
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